自衛隊員が泣いている

三宅勝久自衛隊員が泣いている 壊れゆく”兵士”の命と心』花伝社、2013


自衛隊の暗部を追及したルポルタージュ。著者は、元山陽新聞記者で現在はフリージャーナリスト。武富士を批判する記事を書いて武富士から訴えられ、最高裁まで行って勝訴した人である。

この本の内容は驚くことばかりで、自衛隊が組織に都合の悪い事件を、組織ぐるみでごまかそうとした事案が列挙されている。内容は、警務隊による濡れ衣捜査、これが3件。いじめ、暴力による事故、自殺事件、これが3件。取引業者からの便宜供与が1件、イラク特措法によるクウェート派遣中の事故の隠蔽が1件、脱柵した自衛官による殺人事件が1件。最後に、自衛隊の組織ぐるみでの裏金づくりが1件。

スキャンダルばかりで、著者による「盛り」がないかと普通は疑うところだが、記述の内容は裁判記録または当事者の実名でのインタビューを通じて構成されているので、信憑性は高い。どの例も、自衛隊が関係者で口裏合わせをして、事案を隠蔽しようとしたことが赤裸々に描かれている。

最後に置かれている、自衛隊の裏金作りについての元1等陸尉に対してのインタビューには相当驚いた。やっていることは警察の裏金作りと同じである。裏金の原資は、カラ出張や演習経費の架空計上。一番ごまかしがひどいのは陸幕の中央会計隊だと書かれている。このインタビューを受けた1等陸尉は、業務隊の不正を暴露した後、横領容疑で警務隊の捜査を受け、不起訴となったが懲戒免職。その後懲戒処分の取消訴訟を行ったが敗訴という結末。

裏金の規模は警察よりは小さいようだが、組織ぐるみの不正経理という点では同じ。しかも内部告発者には濡れ衣を着せて捜査、処分という流れ。外部の目が届かない組織は、どこもひどいことになっているという実例である。