不沈艦撃沈

「不沈艦撃沈」、井上正夫、小沢栄太郎東野英治郎ほか出演、マキノ正博監督、松竹、1944


戦時中の映画。不沈艦というのは、プリンス・オブ・ウェールズのこと。だったら、その不沈艦を撃沈する帝国海軍の大作戦が…と思ったら大間違いで、内容は全部魚雷の部品を作っている軍需工場のお話。飛行機や船はちょっとだけ申し訳程度に出てくるが、それだけである。

冒頭、朝日をバックに「一億の 誠で包め 兵の家」というおことばが。何しろ海軍省後援である。

軍需工場では、部品の生産を10割増産にしてくれという艦政本部の藤原少佐の意向(命令ではない)を受けて、社長の東野英治郎がやってくる。いきなり生産を10倍にしろと言われても、機械が壊れたらどうする、あれはアメリカ製で代わりがきかない、第一無茶をして事故でも起こったら取り返しがつかないだろうと、非常にごもっともな意見をおっしゃる工場幹部。それに対して、「軍が必要だと言っているのだから何が何でもやらねばならぬ」と、力説するのがもっと若い担当者。

なんだかんだといろいろあって、工員たちは最初は不平を言っているが、次第に残業、増産に協力するようになったところで、いきなり問題の機械が爆発。工員の一部は大やけど。言わんこっちゃないと思っていたら、日本製でも工夫次第でなんとかなるということになり、増産計画は達成されてしまうのでした。

そこに大東亜戦争開戦、不沈艦プリンス・オブ・ウェールズ撃沈のニュースが。もちろん、それっぽいシーンは何もなく、ラジオニュースが流れて工員が感激したり、大本営で提督たちが興奮している場面が映るだけである。

最後は、軍令部の大佐(小沢栄太郎)が、工場で工員たち相手に大演説。この大佐、ただものではなくゲッベルス並みの大演説。「いかなることも言挙げせず、ただなすのみ」「機械の不足は労働時間の延長で補い、延長から当然生じる肉体の疲労は精神力を奮ってこれを克服し」「もしもあなた方に一日の、1時間の、いや1分の怠りがあるならば、わが忠勇なる将兵は幾万となく傷つき倒れていくのです!」。

工員全員、感激のあまり泣きだしてしまう。「やります!」の声が満場から起こり、「かしこき辺りより賜った優渥なるお言葉」という殺し文句で演説は終了。小沢栄太郎大佐以下、工員全員日の丸に敬礼しておしまい。


さすが昭和19年。とにかく労働!不可能は精神力で克服!という報国精神大爆発の映画。しかもお金のかかったような場面はほぼ皆無。脚本は小国英雄