自衛隊と戦争

芦川淳『自衛隊と戦争 変わる日本の防衛組織』宝島社新書、2013


著者は1967年、軍事ライター。過去『セキュリタリアン』誌の専属ライターだった経歴がある人なので、自衛隊の半ばお抱えのような立場。

内容は、予算や武器開発、部隊(戦闘、後方職種)、自衛官の仕事(人事、給与など)が中心で、新書サイズの本だということを前提にするとこの部分は比較的よく書けている。読みやすい図表を多用していて、白書やその他の政府文書から引用している図表もちゃんと加工してある。

また給与や昇任の部分は比較的詳しく書かれていて、幹部や曹士の生活や人事サイクルはよくわかるようになっている。

ダメなところは、国際情勢や他国(中国、北朝鮮)の分析の部分。ここは著者のフィールドではないらしく、きちんと書かれていない。だから、自衛隊が実際の戦争でどこまで役に立つのかということはこの本ではよくわからない。この本のタイトル「自衛隊と戦争」は、適切な表題にはなっていない。

それに関連して、基本的に自衛隊に対して批判的な記述がない。従って、自衛隊が抱えている問題は、自衛隊に都合のいい部分しか書かれていない。これは自衛隊に近すぎる立場の人が本を書いた場合に不可避に出てくる問題。

また、新書サイズの本であれば、関連書籍やウェブサイトがあげられているべきだが、それもない。これもあまり親切ではない。

著者は自衛隊の現場取材の経験が豊富だと書かれているので、このような全体像の紹介本よりは、特定の部隊や職種に絞ったルポルタージュを書いてもらったほうがありがたい。