この世界の片隅で 上、中、下

こうの史代『この世界の片隅で』上、中、下、双葉社、2008-2009


こうの史代の、こちらは呉のおはなし。『夕凪の街 桜の国』が戦争が終わった後から話が始まっているのに対して、こちらは、戦争前、昭和9年から始まって、昭和21年1月で終わることになっている。大部分は、戦局が厳しくなった昭和18年から後の話。

『夕凪の街 桜の国』よりも、ストーリー、史実の調査(主に戦時中の生活)とも格段に進歩している。とりわけ、軍港呉のようすや町の人々と海軍との関わり(主人公の夫は海軍軍法会議録事で、舅は呉工廠で勤務)、呉の遊郭、銃後の生活が細かく再現されており、非常にリアリティがある。

舞台が呉に設定されているところが重要なポイントで、呉は海軍の根拠地だったから度々爆撃されていて、市街地も丸焼けになっていた。軍港としての活気が、あっという間に空襲で吹き飛ばされていくさまがていねいに描かれている。

ちょっとクサイところ(例えば、終戦直後に太極旗が町に翻っている場面)もあるが、まあ許容範囲内。戦時から敗戦、戦後にいたる人々の気持ちの変化を追いかける構成が特にいい。

前作が「原爆後」の話に絞られていて、ある意味単純な話になっていたのに対して、こちらは複雑なものごとが単純化されずに描かれていて、より深みのある話になっている。秀作だと思う。