日本警察の現在

小林道雄『日本警察の現在』岩波書店、1998


この本には本当に驚いた。著者は1934年生まれ、ノンフィクションライター。他にも『日本警察 腐蝕の構造』などの著書があるので、警察分野には詳しい人。

まず「裏金」問題から始まるのだが、これまで数冊の本を読んで、警察の裏金作りの実態はある程度知っていたものの、全体の仕組みとそれが隠蔽される理由はこの本でやっとわかった。捜査経費が仮に500万円下りたとすると、刑事企画課が200万円抜き、本部の1課が150万円抜き、捜査本部に残るのは150万円だけ。抜かれたカネが裏金になる。裏金は、本部の各課が「部費」「部長経費」として納入。部長経費は、本部部長が使い放題。これは戦前正規の制度として認められていた機密費を、裏金の形で再現している。

部長は飲み代から、ゴルフ代、私的な生活費までこれを自由に使える。さらに餞別がこれとは別にあり、キャリアの警察官は2年で異動するので、その餞別は数百万円、本部長では1000万円以下ということはないという。「署長三回、家が建つ」とも書かれている。

さらに会計検査院は、接待で丸め込まれており、検査自体が出来レース。新聞は警察を敵にすると取材に支障が出るのでめったに書かない。これで秘密は守られることになっている。

警備公安警察は、どうでもいいことをわざわざ大きくする「作文」係。これはイスラム教徒に対する捜査情報が暴露された資料を見ているからだいたい見当はつく。

キャリア、ノンキャリア幹部(警部以上)、ノンキャリア一般(警部補以下)の「身分制度」、刑事警察の弱体化、生活安全部門への進出、人事などについても、ていねいに書かれている。出典があるものは明記。内容は詳細で、信用せざるを得ない。

先進国の警察で、個人の腐敗はともかく、組織ごと腐敗していて、何でもやり放題、というところはあるのだろうか。この本が出たのはもう15年前だが、今でも何も変わっていないだろう。