聖地巡礼ツーリズム

星野英紀、山中弘、岡本亮輔編『聖地巡礼ツーリズム』弘文堂、2012


タイトルから、最近はやりのアニメ関係の「聖地巡礼」かと思ったら、こちらは本物の「聖地」のことをメインにした本。付随的にアニメ関係の「聖地」のことも取り上げられている。著者は宗教学、人類学関係の人たちで、40人ほど。論文集や研究書とは違うが、基本的には研究寄りの本。

52の聖地が取り上げられていて、四国遍路、ルルドチベットミャンマー、メッカ、エルサレムのような文字通りの聖地から、成田山牛久大仏のような新しい聖地、鷺宮神社、定林寺、青森キリストの墓のようなメディアが作った聖地、御巣鷹山グラウンド・ゼロ、沖縄、広島、長崎のような負の聖地、靖国神社、韓国の戦没者墓地のような国定聖地まで、日本にある場所にやや偏っているが、幅広く取り上げている。

巡礼研究、聖地研究が宗教学、人類学、社会学系で確立された研究分野になっていることを知らなかったので(よく考えれば、あって当然の分野だが)、この分野でどういうことがテーマになっているのかを知ることだけでもとても勉強になった。今週のスペインの列車事故で列車の目的地になっていたサンチアゴ・デ・コンポステーラの聖地としての状況もちゃんと書かれていて、事情がよくわかる。

アウシュヴィッツ収容所の遺跡は、ポーランド人の犠牲を記念する遺跡と思っているポーランド人と、ユダヤ人にとっての犠牲の象徴と思っているユダヤ人のギャップが面白い。自分はポーランド人にとってのアウシュヴィッツの位置づけがまったくわかっていなかったが、そのような捉え方も、ここが「聖地巡礼ツーリズム」の目的地になっていることの結果。

戦没者慰霊の方法を、靖国神社、イギリスのセノタフ、韓国の戦没者墓地の項目を読むことで横断的に眺めるのもおもしろい。一般向けと、研究向けのちょうどよい位置を取れている本で、とても読みやすく、興味をそそる本。