資産フライト

山田順『資産フライト 「増税日本」から脱出する方法』文春新書、2011


日本人の小金持ちがどうやって資産を海外に移転させているかということについてのルポルタージュ、というのは、この本の読者に対するキャッチーな部分で、中心的なのは、「日本がいかにビジネスに向いていないか」「日本がなぜ金持ちから資産を搾り取ろうとしているのか」「日本だけで生きていくことがいかにリスキーなことか」についての著者の主張。

この本が書かれた時点で、すでに大金持ちは資産フライトを終わらせているので(武富士裁判は、それについての税務、司法当局と金持ちの闘争)、いま資産フライトをやっているのは資産1億円以上の「小金持ち」。ちなみに大金持ちとは資産10億以上の人たち。これくらいの資産があれば、金持ちに厳しい日本の税制と、日本経済の将来に対する不安、今後の増税期待を考えれば、さっさと資産を移してしまうのが得策。「小金持ち」はいままで資産の海外移転にあまり関心をもっていなかったが、この本が書かれた当時の円高と、将来に対する不安から、それをやり始めたというおはなし。

金持ち、小金持ちに対して、取材をまめにやっているので、彼らがどのように考えているか、どのような生活をしているのか、どのように資産フライトを実現させているのかという事例がいろいろと出ている。

簡単にいえば、日本人は英語ができず、従って日本国内だけで資産を保有したり運用したりすることが、どれだけ不利でリスキーなことかという情報がなく、また海外に資産フライトさせるための情報も得ることができない。超ドメスティックな人々だから、何もできないだけで、外国の情報を取れる人はさっさと資産フライトさせているということ。

資産1億円だったら、海外フライトはやってもおかしくないだろう。ただし、より資産が少ない人だと、海外に資産を移すコスト等があるので(この本では、現金を直接持ちだしたり、時計に替えて持ちだしたりする手口が書かれている)、なかなかできないかもしれない。それでも年に一度、香港に行く機会があって、かつ香港の銀行に口座をつくれる程度に英語ができれば、十分に意味がある選択肢。超円高でなくなった今でも、長期的に日本のインフレ懸念や増税懸念は高いのだから、日本国内だけで資産運用することは、「一つのバスケットに全部の卵を入れておく」のと同じだという指摘はあたっている。