夜露死苦現代詩

都築響一夜露死苦現代詩』ちくま文庫、2010


巻頭、都築先生がおっしゃっているのは、「詩は死んでなんかいない。死んでいるのは現代詩業界だけ」という一言。実は最近読んだ本で、「現代詩集は初版が数百部単位。もちろん再版される機会はめったにない」という記述を見つけた。数百部って、それは同人誌のレベル。ごはんのネタとしてはほぼ成り立たない。現代詩というのはそんなにすごいことになっているのか、と思って読んでみたのがこの本。こちらは「現代詩ではない、現代における詩の本」なので、載っているのは明らかに精神に問題のある方の作品とか、風俗店の広告とか、湯のみに書いてある説教詩とか、そういうものだが、これは目いっぱい笑える。

この中で一番キテると思うのは、「肉筆のアクション・ライティングあるいはインターネットのエロ事師たち」というエロ関係の広告メッセージ。gmailを使っていると、この手のメッセージはほぼ100%近くはじかれるので、読む機会はないのだが(あっても読むわけはないので、すぐに削除行き)、都築響一はこの手の広告からおもしろいものをガンガン拾ってきている。本文を読むと、担当編集者とライターが7人がかりで一週間かかって集めてきたのだという。この「関東近県の某エステ店」の広告がかなりいっちゃってるが、都築響一が店に電話して「このコピーを書いたのはどなたですか」と聞いたら、「取材なんかすんじゃねえ!」とガチャ切りされたというオチまでついている。

読んでいて一番キツイのは、池袋近くのアパートで餓死していた老母と中年男のアパートから見つかった老母の日記。これは役所が日記を公開したために出版されたので、『池袋母子餓死日記 覚え書き(全文)』というタイトルで本になっている。調べてみたら大竹市竹原市の図書館にあった。資料貸借を頼むかなあ。しかしこの本で引用されている部分だけ読んでも、かなりおなかいっぱいだ。全文読むともどしそうな予感がする。異常に読点が多い、変な文章、変な数式(苦、死、散々、無残といった言葉の語呂合わせが答え)、これだけ読んでいても頭が変になりそうだ。ダイイングメッセージも凄絶。

この本の終わりに「付録対談」として、本物の現代詩人、谷川俊太郎との対談がついている。谷川大先生によると、「随分現代詩を過大評価されているような気がしました。こんなに相手にしてもらえるようなジャンルじゃないよ、僕たち(笑)」ということだ。そりゃ部数数百部の業界ではそうだろう。谷川俊太郎は、大学の教職などについていない、本当に筆一本の人だから、現代詩がどれだけ食えない業界かということは骨身にしみて知っているはず。日本に限らず、先進国で詩だけで食べていけることは基本的にないと言っているので、どこでも事情は同じらしい。