これが潜水艦だ

中村秀樹『これが潜水艦だ 海上自衛隊の最強兵器の本質と現実』光人社NF文庫、2008


著者の3冊目の本。海上自衛隊の潜水艦に焦点をあてて、現代の潜水艦と潜水艦戦について書いてある。

現代の潜水艦が実質的に海を支配する存在であることがよくわかる。原子力推進ではない通常動力の潜水艦であっても、敵に探知される可能性は非常に低く、たいていは潜水艦が先に相手を発見できるので身を隠すのは容易。我が方が不利だと判断すれば隠れていればよく、有利ならば待ち伏せして先制攻撃をかけられるので、潜水艦が常に有利である。相手が航空機であっても、センサーの電波を先に潜水艦が察知できるので、簡単に身を隠せることはかわらない。

潜水艦の使い方について詳しく書いているところがこの本の特徴なのだが、それと同様に潜水艦乗員の養成や潜水艦の生活についてきちんと書かれているところもポイント。潜水艦乗員のそれぞれの役割や、食事、水の使い方、トイレ、余暇の過ごし方まで、乗員としての経験がないとわからないところが細かく書いてある。これは本書の大きな長所。

潜水艦の相手側に立った場合の対潜戦術についても分析されている。相手は海上自衛隊の通常型潜水艦という設定なので、シュノーケリングを抑制し、相手に行動の自由を与えないことの必要性が強調されているが、これで相手が原子力推進なら、露頂の必要性は薄いので、非常に対処は面倒だ。潜水艦の相手は潜水艦であり、空水部隊は潜水艦に対して優位に立つのはむずかしい。ただし通常型潜水艦は速力が出ないので、航空部隊で哨戒を続けながら、高速フェリーで単独航行したほうが安全というのが著者の見解。

前の2作は海上自衛隊に対してかなり手厳しく批判していたが、この本ではそれは抑制されている。もっともこの本の後で出版された「自衛隊が世界一弱い38n理由」で徹底的に自衛隊の現状が批判されているから、その内容はそちらに譲ったのかもしれない。

現代の潜水艦について知る場合にまず参照されるべき好著。