本当の潜水艦の戦い方

中村秀樹『本当の潜水艦の戦い方』光人社NF文庫、2006


太平洋戦争での潜水艦戦を回顧、評価する本だが、海上自衛隊の潜水艦作戦についても一部触れられている。著者は、1950年生まれ、防衛大学校18期、護衛艦隊幕僚、潜水艦館長、幹部学校教官を経て、防衛研究所戦史部を最後に退職という経歴の人。実際の潜水艦乗りで、かつ戦史研究者でもあった人なので、このテーマに適切な人物。

太平洋戦争での潜水艦戦は、日本側が警備の厳重な艦隊攻撃に集中して、通商破壊戦のような、より潜水艦に適した任務を積極的に行わなかったために失敗したと理解していたが、この本を読んで、それだけではないということがよく理解できた。

日本海軍の潜水艦戦の誤りは、艦隊攻撃という当初の方針を変えようとしなかったことだけでなく、潜水艦の行動に対する過度の束縛、不適切な配備、攻撃目標の選定ミス、情報収集の不足などの複合的な原因の結果。特に最も重大なことは、潜水艦を運用する連合艦隊司令部や潜水艦部隊の第6艦隊司令長官に潜水艦戦を理解している人物がおらず、潜水艦の特性を知らないままで無理な任務を押し付けたことが大きい。中でも最悪だったのはソロモン、ニューギニアなどへの離島への輸送任務で、潜水艦に最も不適な任務で貴重な潜水艦をすり潰してしまった。

アメリカ側が現場の意見や潜水艦戦の教訓を取り入れて、潜水艦の用法を柔軟に変えていたのに対して、日本側が戦訓を取り入れることがほとんどできなかった問題も大きい。著者は「民族性が原因」とまで言っている。

さらに海上自衛隊になってからも、司令部が水上艦と航空機の出身者で占められていて、それらの人々が潜水艦の用法を理解していないという指摘は重大。行政から訓練まであらゆる面で潜水艦の扱いは旧海軍よりも悪くなっており、「対潜戦の標的扱い」しかされていないという。そもそも水上艦部隊や航空部隊の対潜戦そのものがまともなレベルで成り立っていないと主張されている。

驚くような指摘が続出するが、日本海軍の潜水艦戦に対する批判の延長線上で海上自衛隊の態勢が批判されているので、うなずかざるを得ない。海上自衛隊も、ハリコの虎だという話。読後、慄然とさせられる。