「反日」中国の真実

加藤隆則『「反日」中国の真実』講談社現代新書、2013


これは良書。著者は読売新聞中国総局長。

中国における「反日」の背後にあるものは何か、どういう経路で「反日」的態度が出てくるのかについて、丹念に取材して書いている。砂のような中国社会で人々を結束させるほとんど唯一のネタが「愛国」で、その「愛国」は、外国に対する攻撃的な反発という形でしか出てこないという現象をよく調べている。「愛国」を振り回されると、誰も異論を挟むことは許されず、「愛国」を傷つけたとみなされると、「漢奸」扱いである。この態度が「官許」の正しい態度として公認されているので、違う意見は出てくる余地がないことになる。

一方、大使公用車の国旗強奪事件や、反日デモ、日本車や日系企業の襲撃事件については、単なる自然発生的な行動ではなく、背後に組織的な(おそらく闇社会がらみの)指示があり、中国当局も真相追求をまじめにやろうとしていないことも書かれている。このあたりのことは、現地でちゃんと取材していないとわからないので、この本の存在価値は貴重。

著者の執筆目的の中に、「日中友好のための処方箋を書く」ということが入っていて、その部分はかなり余計な記述にしかなっていないのだが、分析をしている部分は、日本語の類書があまりないので重要。日本メディアが「中国での反日を過度に強調することで商売している」ことも指摘している。「日本と中国は、別のチャンネルのテレビを見続けているようなもの」という分析も当たっているだろう。

よく文献に当たっているところと、足で稼いでいるところが、いい具合におもしろいストーリーを作っている。事実につくことの重要性をあらためて教えられる。