日本の空を誰が守るのか

佐藤守『日本の空を誰が守るのか』双葉新書、2011


この本にはいろんな意味で驚いた。著者は、1939年生まれ、元空将、南西航空混成団司令で平成9年=1997年に退役。現在は岡崎研究所理事ほかという経歴の人。

最初の方に、日本が直面している最も重要な脅威は、1番目が南西諸島(つまり中国)、2番目がロシアだという。まだロシアと戦争する可能性があると思っているのだろうか?その後の部分を読んでも、ロシア機による領空侵犯については書いてあるが、ロシアと戦争するシナリオは全然書いていない。だいじょうぶなのか?

自衛隊の能力についても、書いてあるのは「戦闘機同士の空中戦における戦闘機の能力」でしかない。航空基地やレーダー基地、通信網、何より市ヶ谷の防衛省が攻撃を受けたら(というか、受けるだろうが)どういうことになるかについてはまったく記述なし。これでは戦闘機パイロットとしての思考から出ていない。空将まで昇ったのだから、当然戦争全体についての見通しがなければいけないのでは?もちろん、サイバー攻撃自衛隊が動けなくなる可能性などどこにも書いていない。

北朝鮮のミサイルは脅威ではないと言っていて、それはいいが、弾道ミサイルの重量は投射重量の1000倍必要なので、100キログラムの弾頭重量なら、ミサイルの重量は100トンと言っている。ミサイルの飛翔距離で燃料の重さは変わるし、ノドンは1トン強の投射重量で、ミサイルの本体重量は16トンだということになってますが…。しかもロケットエンジンの、燃料はケロシン、酸化剤は液体酸素で、日本のH-2と同じ、低温保持が必要で直前に注入する必要があると言っている。ノドンは、燃料はジメチルヒドラジン、酸化剤は赤煙硝酸で常温保持できますが。燃料の注入は事前に衛星偵察でわかると言っているが、上空を遮蔽された洞窟陣地で注入する可能性は考えないのだろうか。

だいたいこの調子で、ほんとうにプロの自衛官だったのかとびっくりする。退役してから15年くらいたっているから、こんなものなのかもしれないが、退役自衛官の書いたものはよく気をつけて読まないといけないということを再認識。この本、一昨年に出ているのだが、まだ普通に売られている。