狡猾の人

森功『狡猾の人 防衛省を喰い物にした小物高級官僚の大罪』幻冬舎、2011


防衛事務次官を4年以上つとめて「天皇」と呼ばれ、その後収賄、偽証で逮捕され、懲役2年6月の実刑判決を受けた守屋武昌についてのノンフィクション。

本の最初に出版の経緯が書いてある。もともとこの本の出版は守屋武昌自身から幻冬舎に持ち込まれた。ところが、森功のインタビューがだいたい終わって、出版の準備が進んだ後になって連絡が取れなくなり、その後、守屋本人が娘同伴で幻冬舎にやってきて、「この話はなかったことに」と言い出したらしい。守屋自身が書いた本だったら、これで話は消えていたところだが、「聞き書き」本だったから、本は出版されてしまったというおはなし。守屋側にとっての、この本の問題は、守屋の家族関係に関する記述と裁判に関する部分だったことが示唆されている。

この本は、守屋武昌の防衛官僚としての仕事を全体的に追いかけたものではなく、主に調達関係(ガルフストリームF-2など)に関する防衛官僚、政治家、制服組、商社、そしてアメリカがからんだ複雑な関係と、守屋武昌や妻が山田洋行の宮﨑元伸から受けた接待(というより商社員である宮﨑と守屋家との関係全般)について書かれている。

なので、守屋武昌が官房長、防衛局長、事務次官として行った仕事についてはほとんど書かれていない。ほとんど調達関係と収賄に関することだけ。しかし、そうであっても本の中身はじゅうぶんおもしろい。F-2開発問題で、アメリカとの交渉がまったく進まなくなった時に、ロビイストのジョン・カーボを通じて運動し、やっとGD社の言い値を値切れた経緯、リチャード・アーミテージやジェームズ・アワーのような大物ロビイストとの関係、同時期に逮捕、起訴されて有罪となった「日米平和・文化交流協会」の秋山直紀の役割、宮﨑元伸のような一介の商社員が守屋とズブズブの関係になるまで食い込んでいく過程など、事件にならないとわからないようなことについて、多くのことがわかる。

一方で、事件化されなかったことはわからないので、政治家、特に額賀福志郎久間章生の関わりについては断片的なことが書いてあるだけで、彼らの関わりについてはわからないまま。もともと検察は政治家を捜査する糸口として、守屋武昌山田洋行の関係に手をつけたのだが、結局竜頭蛇尾に終わったというおはなし。

守屋武昌自身による普天間問題の本や、この汚職関連での別の本もあるので、そちらもおいおい読む予定。