日米同盟 vs. 中国・北朝鮮

R.L.アーミテージ、J.S.ナイ、春原剛『日米同盟 vs. 中国・北朝鮮 アーミテージ・ナイ緊急提言』文春新書、2010


日経の春原剛が、アーミテージ、ナイの2人に質問をぶつけて、2人がそれに答えるというインタビュー形式の本。そういえば、刊行された当時は、小沢一郎の悪口が露骨に書かれているということで話題になった記憶がある。実際に読んでみると、アーミテージは確かに小沢一郎に対してほとんど敵意に近い考え方を開陳している。もっとも、より強く攻撃されているのは鳩山由紀夫なので、鳩山政権が攻撃されているというのが正しい。ただし外相だった岡田克也に対してはちゃんとフォローがされているので、政権全体を非難しているわけではない。

基本的には、春原が日本国内の意見(彼個人の意見もあるが、多くは日本の政治家や世論に見られる考え)をぶつけ、それに対して、アーミテージが強腰でアグレッシブに、ナイがややていねいな言い方でマイルドに説教するというスタイル。アーミテージとナイは、オバマの評価など一部では意見が違うが(アーミテージオバマの悪口を言っている部分ではナイは沈黙)、基本的にはほとんど同じような立場。共同執筆で、対日政策の提言をしているのだから当然という気もするが、アメリカ政府まわりの日本屋の見解はだいたい集約されているのだろう。

タイトルでは、対中、対北朝鮮政策のことがもっぱら議論されているかのような印象を与えるが、必ずしもそれだけではなく、歴史問題、特に原爆投下や沖縄返還のようなアメリカ人と日本人で意見が異なるような問題についても質問を投げているし、特に日本の核武装関係の問題については、しつこく聞いている。これはこの本のよいところ。

日本を「出来の悪い弟から、信頼できるパートナーへ」に仕立てるというのが2人の目標なのだが、春原の投げる質問に表れている日本人のイメージは「アホで出来の悪い弟」そのもの。まあ、意図的にそのような形で質問を出しているのでそうなっているのだが。そういう「弟」を、おだて、なだめ、ある時には暗に脅して、自分の望む方向に誘導する、というのはアメリカの経験ある政治家(正確には2人は政治家ではないが、まあ似たようなもの)のテクニックだが、そのあたりは非常にうまい。逆にアメリカに対して批判的な日本の政治家は、単に自分の考えや感情を投げているだけで、相手を説得できるような議論はほとんどできていないので、「兄」と「弟」の格の差は歴然としている。

頭のいいアメリカ人の議論のレベルを知るためには便利な本。たぶん2人は昨今の状況をみて、「困った弟」に頭を抱えていると思うが…。