防衛庁再生宣言

太田述正防衛庁再生宣言』日本評論社、2001


著者は1971年防衛庁入庁、官房審議官、仙台防衛施設局長を努めて、2001年に「自主的に」退官(役所からの就職援助を受けない、自主退官)という経歴の人物。

従ってこの本は、防衛庁の内情を告発するもの。入庁当時、内局キャリアの職員は、「軍隊は存在自体危険だから、ないにこしたことはないが、それではアメリカに言い訳が立たないから牙を抜いた自衛隊を維持するだけでよい」と考える「多数派」と、「実際に自衛隊が使われる場合を想定して、それに備えて実質的な存在としての自衛隊を整備、維持すべき」と考える「少数派」に分かれていたという。

しかもその後、防衛はアメリカに依存すればよいという「モラルハザード」はさらに防衛庁を侵食し、多数派も少数派もいなくなり、防衛庁は、制服、背広を問わず、組織維持のための生活互助会となっていったとする。

中心的な読みどころは、第一章「知られざる防衛庁自衛隊の内実」で、防衛庁自衛隊の仕事がいかにデタラメかということが事実をもって書かれている。揚陸艦ベローウッド修理問題、海兵隊射撃訓練の分散問題は、防衛庁および防衛施設庁がまともに仕事をしていない(アメリカの要求に対してきちんと交渉しておらず、日本国内の調整もしていない)例としてあげられている。さらに空母艦載機のNLP問題で、防衛庁が実質的に調整を放棄し、著者の建言が無視されたことで、これ以上防衛庁にいてもまともな仕事はできないという理由で、著者は退官を決意したということになっている。

もう一つの事例は、1998年からの防衛庁のコンピュータ・システム導入問題。誰も事務処理のためのコンピュータ・システムを庁全体で統一しなければならないことを理解しておらず、システムの採用にあたって多大な混乱が生じたというもの。

さらに予算配分の非効率をイギリス軍と自衛隊を比較して示すことも行われている。確かに、核兵器システムを保持しながら、外国で戦争も行なっているイギリス軍に対して、自衛隊はより多額の予算を使いながら、システムとして劣った防衛力しか整備できていない。

第三章以後は、それまで著者が公表してきた文章の寄せ集めなので、それほど価値を感じないが、第一章の指摘は確かに痛烈。この内容を、著者のそれまでの役所での仕事の経験から得られた事実を使って、補強した上で一冊にまとめてほしかったのだが。政治家と防衛庁の関係については、別の暴露本を書いているようなので、そちらも読んでみる。