ももクロの美学

安西信一ももクロの美学 <わけのわからなさ>の秘密』廣済堂新書、2013


ももクロファンの間では、非常に評判のよかったこの本。買って読んでみると、実際とてもよく書けた本。

著者は、東大人文社会系研究科准教授(美学芸術学専攻)。この本を読むと、著者がももクロコンテンツに深くハマり込んでいることにあきれる。ライブに行く程度のことは当然として、テレ朝動画の「ももクロChan」やユーストリームの「momocloTV」もほとんど見ているようなのだ。日本のアイドル史にひととおり通じていて、かつ、プロとして楽曲の分析ができて、芸術史の突っ込んだ知識もある。この人に分析本を書いてもらえるももクロも幸せ者だ。

ももクロがファンを惹きつける理由がひとおおり分析されているのだが、中でも重要なのは、動き、踊りのキレという身体性、これまでのアイドル歌謡を含む日本のポピュラー邦楽のさまざまな分野からの多重引用に見られる音楽的な豊かさ、戦い、前向きさん、素人くささ、セックス周りからの断絶、未成熟な少女の成長といった物語ネタの彩りといったようなこと。

中でも、ももクロの楽曲の引用元の豊富さが、アイドルオタクの心をわしづかみにしているという指摘には納得する。キャッチーな音楽と踊りで初めて見た人を引き込むだけでなく、楽曲の元ネタがたくさんあるので知れば知るほどたのしめる。とてもツッコミがいのあるコンテンツになっていて、深くハマっていくファンを飽きさせないだけの内容がある。

タイトルで話題になった『前田敦子はキリストを超えた』はまだ読んでいないのだが、本書の著者もももクロから宗教的な要素を強く感じ取っている。この論にも納得。自分はAKBグループにはまったく惹かれるものを感じないが、AKBファンとももクロファンには強い共通性があり、それが「サリンをまかないオウム」に通じるものがあるという著者の指摘には説得力がある。

何年かたって、ももクロが今の地位にいなくなった時に読むと、さらに味わい深いだろうと思える本。アイドル本の分野で長く残っていく名著になるだろう。