日経新聞の真実

田村秀男『日経新聞の真実 なぜ御用メディアと言われるのか』光文社新書、2013


これは良書。著者は、元日経新聞編集委員で、現在産経新聞社特別記者・編集委員論説委員。新聞記者で、それなりのキャリアがある人が会社を移る例はめずらしいが、著者はその一人。なぜ会社を移ったかということの説明も本の中でなされている。

著者は日経の記者だったので、主に書かれているのは日経新聞のことだが、著者自身が「官報」「御用メディア」と揶揄される日経にいて、そのとおりの役割を果たしていたことへの反省もきちんと書かれている。内容は、ワシントン特派員時代、アメリカ発の特ダネを取ることに汲々とするあまり、FRBが日銀に圧力をかけるためのメッセンジャーとして使われていたというもの。

著者の個人的な経験だけでなく、新聞社がどのように記事をつくるのか、ヒラ記者、キャップ、デスク、部長らの役割、記者の目標は何か、どんな記事が採用されるのか、といった、新聞社の内部事情がわかりやすく書かれている。内容は、まあ周知のとおり、「特ダネ取り競争」にどの新聞も必死になっているということなのだが、日経は財務省、日銀のいいように使われていることが、事例とともに赤裸々に書かれている。

著者の指摘のうちで重要なのは、日経新聞が経済専門紙なのに、記者が経済学の勉強をおろそかにしているというもの。もちろん基礎は知っていても、最新の経済理論を知った上で、実際にデータを分析加工して、財務省や日銀の発表と突き合わせるということができる記者がほとんどいない。特ダネ取りのために、人間関係を築くことにほとんどの時間を取られていたりする状態では当然そういうことになってくるが、どこの新聞社も同じことをしているとすれば事態は深刻。

大学のエコノミストについても事情は同じようなもので、東大の伊藤元重は、財務省のポチとして名指しで手厳しくやられている。ポチでない経済学者の名前が何人かあげられているが、1ページにも満たない数。

新聞も、会社の名前ではなく、記者の名前で読まなければ肝心なことはわからないということがよくわかる。それにしても日経がここまでひどいとは。他の新聞も経済に関しては日経よりひどく、経済以外についても同じようなものだから暗澹とさせられる。