中国台頭の終焉

津上俊哉『中国台頭の終焉』日本経済新聞社、2013


この本の内容にはかなり驚いた。著者は、通産省に入省後、中国畑を歩き、通商政策局北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員を務めた後、退官して、現在津上工作室代表という経歴の人。

著者の主張によると、中国が今後も7%以上の成長を続けられる見込みは薄い。潜在成長率は5%程度の「中成長」が精一杯で、それを達成することすら、以下の理由によって難しい。短期的にはリーマンショック後の4兆元の大量投資の後遺症がある。投資需要は先食いされており、投資水準を抑制するか、不良債権の増大を招くか、どちらか。

中期的(2020年ごろまで)には、賃金と物価が上昇するので、生産性の向上によらなければ実質成長はできない。非効率的な国有企業部門の縮小や農民の移動を妨げる都市と農村の二元構造の解決が必須。

長期的(2020年以後)には、生産年齢人口比はすでに2010年にピークを迎えており、総人口も2020年がピーク。それ以後は減少するため、「人口オーナス」が成長率を押し下げる。

かりに中国にとって状況が有利で5%成長を継続的田としてもアメリカも2%の成長するから、2020年時点で中国のGDPアメリカの3分の2にしかならず、その後中国経済が減速するから、中国経済アメリカ経済の規模を抜くことはない、というのが著者の結論。

中国経済の状況を非常に悲観的に見ているので、驚いたが、主張の根拠はきちんと提示されている。特に人口問題は深刻。以前からなぜ中国が一人っ子政策をやめないのか、疑問に思っていたが、この政策が制度的に官僚機構にビルトインされており、簡単に方針を変えることはできないとのこと。しかも今から方針を転換してもすでに遅い。

はっきり言って、この本の主張が「アタリ」なのかどうかはわからない。しかし、『おどろきの中国』とは違い、中国専門家の主張であり、しかもきちんとデータで根拠が明示されている。中国経済とその成長力について、これまで持っていた考えはかなり甘かったことを認識させられた。

この本の最も重要な主張は、「日本では、今後も中国は現在のペースで成長を継続するから、尖閣諸島問題で今のうちに中国とはっきり対抗すべきだという主張が支持されやすいが、もしその前提が間違っているとすれば、対中政策も根本から練り直しが必要だ」ということ。著者の主張の信頼性がわからないので、簡単に結論めいたことは言えないが、もしこれが本当なら、相手の力を過大視していることが、より悪い結果を招くような選択を取らせている可能性がある。