日本人が知らない軍事学の常識

兵頭二十八『日本人が知らない軍事学の常識』草思社、2013


ひさしぶりに兵頭二十八の本を買ってみたが、これはちょっとひどくないか?

特に中国と北朝鮮関係のところがひどい。2009年の北朝鮮による2度めの核実験は、放射性同位元素が検出されていないから、「フェイクか失敗」だと言っている。フェイクと失敗ではそもそも大違いだが、それ以前に同位元素が検出されていない=核実験ではないまたは失敗だとどうして言い切れるのか。現実に4キロトン程度の爆発があったことがわかっているのである。断定の仕方が一方的だし、きちんと問題をわかっている人の使う方法とは思えない。

ほかにも、日本の原子力発電所が「地対地巡航ミサイル、艦対艦ミサイル、空対地ミサイル」で攻撃され、日本全土が「フクシマ化」される危険があるという。それもそのような攻撃を行う相手は、中国だけでなく、北朝鮮も入るのだという。

日本中に放射性物質をばらまくことが目的なら、最初から核爆弾を都市に投げ込むほうがはるかに簡単で被害も大きいだろう。だいたい、北朝鮮弾道ミサイル以外でそんな施設を攻撃できる手段を持っていないし、北朝鮮弾道ミサイル原子力発電所の特定の施設にあてるレベルの精度はないことくらい、知らないわけはないだろう。相手が中国であれば、そもそも日本を攻撃できる核ミサイルを数十のオーダーで持っている国が、回りくどく原発など狙うのか?

兵頭二十八の以前からの問題として、戦史関係以外の情報については情報源を書かない。出所がわからない話は真偽の判定ができない。特に兵頭二十八のように、「講談」「床屋政談」レベルのことを平気で書いてしまう人が、出典を示さずに何を言っても、どこが正しくてどこが間違っているのかわからない。これでは正しい部分があったとしても、どこがそうなのかがわからないので危なくて信じられない。

以前書いていた本は、もう少していねいに書かれていたと思うが、この本は書き飛ばしたとしか思えない。靖国神社がどうのこうのとか、日本国憲法は「最初から無効」などというレベルの話は「軍事学」とは関係ないし。かつてはファンだっただけに、この筆の荒れ方はとても残念だ。