日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩

リ・ハナ『日本に生きる北朝鮮人 リ・ハナの一歩一歩』アジアプレス出版部、2013


著者は、北朝鮮出身の脱北者。1980年代初めに新義州で生まれ、高等中学校在学中に家族が親族の不祥事に連座して農村追放処分となった。父親はそのときすでに死去。母親 弟と脱北して中国に渡る。中国で5年間生活した後、2005年に日本に渡航。日本に渡った経緯については詳細は伏せてあるが、祖父母、両親が日本生まれのため、日本政府が身柄を引き受けることになったようだ。母親と弟のその後についてはこの本では述べられていない。

日本では夜間中学3年に編入。働きながら高等学校卒業程度認定試験に合格し、UNHCRの難民を対象とする大学への推薦入学制度を利用して、関西地方の大学に入学。この本が出版された時点で4年生なので、現在は卒業しているはず。

内容は自分の生活についての日記が中心なのだが、北朝鮮で生活していた立場からまったく知らない日本に来て、毎日のどういうことに対して驚いたり、不思議に思ったりしているのかをていねいに書いているので非常におもしろい。北朝鮮での生活(著者の家族は物質的にはそれほど不自由はしていなかったようだ)の断片的な記述もおもしろく、比較社会論の小ネタにあふれている。

著者が、脱北者(この言葉もあまり使いたくないとのことだが)としての出自を他人に話すことを強く警戒していて、そのため韓国人留学生とも普通に関係を取り結ぶことができず、生活上苦労が多いことが何度も述べられている。おそらく日本に200人程度はいるとされる脱北者の多くもそうなのだろう。

北朝鮮社会や北朝鮮当局、金日成金正日、韓国にいる脱北者、韓国政府の態度に対する著者の立場についてもはっきり書かれているが、その立場は別にして自分は著者に非常に好感を持った。これは著者が異郷の地に来て苦労して生活していることへの道場もあるが、それだけでなく著者の人柄のよさ、性格の素直さによるところが大きいと思う。著者が脱北したのは、1990年代末か2000年代初めになると思われるので、北朝鮮の生活状況が悪化した時代のこともよく知っているはず。「北朝鮮では、不良になりかけたこともあった」と書いているが、ネジ曲がったところのない、よい育ち方をしている。著者ももう30歳くらいになっていて、日本での生活はこれからも楽ではないだろうと思うが、著者の人生の幸福を願わないではいられない。