パルジファル

ワーグナーパルジファル


   ヨナス・カウフマン(パルシファル)
   カタリーナ・ダライマン(クンドリ)
   ペーター・マッテイ(アンフォルタス)
   ルネ・パーペ(グルネマンツ)
   エフゲニー・ニキティン(クリングゾル

   指揮:ダニエレ・ガッティ メトロポリタン歌劇場管弦楽団、合唱団

   演出:フランソワ・ジラール

   METライブビューイング、2013.4.12


METライブビューイングの今シーズンのハイライト、新制作の「パルジファル」をやっとの思いで見に行ってきた。休憩込みで約5時間半。直前まで、行くかどうかかなり迷っていたのだが、これは日本にいると実演を見られるチャンスが非常に薄い作品なので、ここで行くしかないと思って行ってきた。そして、やっぱりこれは行ってよかった。

第1幕のモンサルバート城は、高い二つの山に挟まれた谷底にある、魔窟みたいなところ。アンフォルタス王、グルネマンツ、聖杯騎士団のみなさんは、白いカッターシャツに黒のズボン。衣装が違うのは、パルジファルとクンドリーだけだ。

第2幕のクリングゾルの魔法のお城は、血の池地獄。舞台一面に真っ赤な液体が貼られていて、クリングゾルの手下の魔女のみなさんは、全員真っ白なドレス。クンドリーも同じ。この格好で血の池地獄をウロウロするので、全員衣装は血だらけになっている。幕間に美術担当の人へのインタビューがあったが、水、食用グリセリン、食紅で血をつくっているとのこと。「シェービングクリームで洗うとすぐに落ちるよ」と言っていた。

第3幕は、またモンサルバート城のはずなのだが、こちらは地面が干からびた、荒涼の地になっている。地面には穴がそこかしこにあいていて、その一つが、ティトゥレル先王の墓穴。


細かいことはおいといて、この演出には非常に心を打たれた。アンフォルタスの苦しみは、彼個人の苦しみだけでなく、重い任務を背負わされて、それを投げ出すことを許されない人々みんなの苦しみである。アンフォルタスは、あまりの苦しさに死を願うばかりなのだが、聖杯騎士団のみなさんは、「王よ、義務を果たせ」と迫るばかり。見ていて非常につらかった。

アンフォルタスも、白いシャツなのだが、彼だけは右の胸から腹にかけて真っ赤な血で染まっている。第3幕では、血の色がちょっと茶色っぽく変わっているような気もしたのだが、傷ついていることには変わりない。このアンフォルタスの動きのすべてがほんとうに痛々しい。「さまよえるオランダ人」は、見た目、そんなにつらそうには見えないのだが、こちらは見ている側が「早く死なせてやれ」と思わざるをえない。

なので、第3幕最後のパルジファルによる癒しと救済が、見ている客にとっても心から救済と感じられるようになっている。呪われたクンドリーの救済と死も、ほんとうによかったと思った。自分にはこのオペラの細かい解釈は手に余るが、それでも肩の荷をひとつ下ろしてもらったような気がした。

歌手は、どの人もすばらしい出来。特に、パルジファルヨナス・カウフマンは圧倒的な声量と美しい容姿、「聖なる愚か者」のこの役にぴったりの歌手。カウフマンと同等以上によかったのが、グルネマンツ役のルネ・パーペ。声もいいが、オーラのある人。そして、アンフォルタス役のペーター・マッテイも歌唱、演技力、双方で負けていない。

指揮のダニエル・ガッティの音は、造型がすばらしい。演出のフランソワ・ジラールの力量で、よくこのプロダクションが実現したものだと思う。これが5000円で見られたのだからありがたいと思わねば。