ファミリーレストラン

今柊二ファミリーレストラン 「外食」の近現代史光文社新書、2013


ファミリーレストラン」を中心とした近代日本の外食の歴史。明治時代の駅食堂、駅弁、食堂車に始まって、勧工場から百貨店へ、ターミナルデパートの登場と地方への拡大と、戦前日本の外食の歴史がかんたんにまとめられる。その後で戦後の欠乏期を経て、占領軍がもたらした食習慣が日本に与えた影響についての議論が来る。ここまでが前史。

ファミリーレストラン」が1953年の「ロイヤル中洲本店」から始まったこと、チェーン展開、セントラルキッチン方式による調理、1970年の大阪万国博のインパクトの話が次に来る。ロイヤルは、不二家をライバルとして展開していたという話には納得。自分の住んでいた関西では、不二家のレストランは外食の象徴みたいなものになっていて、そこでの食事はちょっとしたぜいたくだった記憶がある。

1970年には「すかいらーく」が営業を始め、「ファミリーレストラン」がこの業態の名称として選ばれる。この業態はアメリカでの「コーヒーショップ」の模倣。ロイヤルホストすかいらーくデニーズの三大チェーンが首都圏に展開するのが1970年代。あさくま、ジョイフル、ジョナサン、サンデーサンなどの地方展開のファミレスチェーンもこのころに参入する。

ファミリーレストランのメニューの特徴、ハンバーグ、ライス、デザート、コーヒーの内容も分析される。自分は今でもそんなにコーヒーを飲まないが、それでもファミレスに行くとコーヒーを頼んでいるし、コーヒーの味自体、喫茶店ではなくファミレスで知ったように思う。喫茶店文化からはちょっと遅れていたのだ。しかも喫茶店のコーヒーが1杯きりなのに、ファミレスのコーヒーは飲み放題。このお得感は強烈だった。

特に懐かしいのは、1983年頃に環状八号線の用賀インター付近にできた、「デニーズ」「イエスタディ」「プレストンウッド」のファミレスが集中した「アメリカ村」の記述。自分は友達に連れて行ってもらって(車は持っていなかったので、一人では行けなかった)、何度も出かけた。キレイで明るい内装、深夜営業のレストランは非常に強い印象があった。お金はあまりなかったので、目玉焼きみたいな安いものとライス、コーヒーで、いつも済ませていた。最後まで残っていた「デニーズ」が2012年5月に閉店したということをこの本で知って、さびしい限り。閉店の前に一度は行っておくのだった…。

90年代に「ガスト」に代表される安価なファミレスが支配的になったこと、00年代以後は、回転寿司、焼肉、ショッピングモールのフードコートなど、多様な形態の外食チェーンが普及していることなど、時系列を追って、最近の事情まで書かれている。

外食の歴史を俯瞰していて、非常におもしろかった。章末には著者自身が実際にファミレスで食事をする様子のレポートがついていて、著者の経験を通じて外食の楽しさが伝えられている。消費生活の分析としても、時代の変化の切り口としてもおもしろい。良書だと思う。