日本近代史

坂野潤治『日本近代史』ちくま新書、2012


坂野潤治による、明治維新から日中戦争開始までの通史。新書だが450ページほどあるので、結構な分量。しかしこのボリュームで、幕末から太平洋戦争直前までの歴史をみっちり書いているので、読み得である。

時代区分は著者の発意で、6つに区切っている。1857-1863が「改革」。中心は、攘夷開国の争点と「改革」がどのように関わっていたか、そこでの西郷隆盛の役割。1863-1871が「革命」。「公議会」構想と「武力倒幕」路線の相克と新政府の脆弱さが廃藩置県につながるまで。

1871-1880が「建設」。「富国強兵」と「公議輿論」の2つの軸がどのように関わっていたか。西南戦争を経て「富国」派の勝利が確立するまでと、その後。1880-1893が「運用」。農民の政治参加と立憲制の樹立、日清戦争と「強兵」論の復権

1894-1924が「再編」。財政積極主義と立憲政友会結党による議会-官僚連合の成立、これが立憲改進党ー憲政会の成立を経て、普通選挙に帰結するまで。1925-1937が「危機」。内政、外政の両極化と政治勢力の分立状態を経て、政府の「非決定」状態が日中戦争を招く過程。

著者のホームグラウンドである、明治維新周辺の時期は一段とていねいに書かれていて、幕末の混乱が「革命」化していく過程がきれいに整理されている。しかし、この本のいいところは、それ以後の著者の直接の専門ではない時期についても、各章ごとにちゃんとした時代把握の枠組みがあり、著者の洞察が示されているところ。

特に、地主層がとった態度とその背景にある経済事情、普通選挙と対外政策路線に関する政党の政策セットが現在のイデオロギー軸とズレていたこと、政党内閣制がどのように潰れていったかという過程の説明、天皇機関説統帥権干犯問題憲法的解釈などの部分で、学べたところが多い。

史料の引用は頻繁に行われていて、読み飛ばせる本ではないが、ストーリーの筋立ては明確なので集中して読み通せる。およそ80年間の歴史をこのコンパクトさにまとめた筆力はさすが。本当にためになった。