日本はなぜ旅客機をつくれないのか

前間孝則『日本はなぜ旅客機をつくれないのか』草思社、2002


『飛翔への挑戦』の著者が2002年に書いた日本の航空機産業の問題点を指摘する本。書いてあることが『飛翔への挑戦』とあまりにも違うのでびっくりした。

著者にはこの本の前に書いた『YS-11 国産旅客機を創った男たち』講談社、1999という本があって、そちらでYS-11プロジェクトの失敗について書いている。この本では、そうした失敗がYS-11プロジェクトだけでなく、他の国産飛行機開発でもさまざまな形で起こっていることを詳細に書いている。

ひとつの問題は、航空機開発に時間と費用をかけてやる体制がないこと。通産省運輸省防衛庁、大蔵省、メーカー、自民党などがそれぞれ自分の都合でものを言っていて、長期的な戦略が立っていないし、航空機開発を継続的に推進していく力もない。特に問題なのは、役所の間の縄張り争いと、メーカー内部での航空機部門の発言力のなさ、アメリカ頼みで自力でやる能力が欠けていること。

C-1開発では、国産派と防衛庁内局(特に海原治防衛局長)との対立について、かなり突っ込んで書かれている。外野(野党ほか)の邪魔という問題はあったにせよ、要求水準や技術的可能性についての国産推進派の見積もりが甘かったことは否めない。実際に、いったん買わないことになっていたC-130を後から買っているのだから、言い訳はできない。

さらにF-2開発では、アメリカからの横槍というよく指摘されていることはもちろんのこととして、そもそも日本の独自技術で先進的な成果を達成するとうたわれていた部分が、初期の宣伝文句に追いついておらず、結果として日本メーカーの能力不足を露呈する結果となっていることが赤裸々に述べられている。

『飛翔への挑戦』が成功物語になっているのに対して、こちらを読むと日本の航空機開発は失敗の連続である。『飛翔への挑戦』のほうが後に書かれているのだから、そちらが正しいと思いたいところだが、こちらの本の取材内容はしっかりしていて、この本の結論に大きな問題があるとは思えない。この分野の他の本も読まないといけないのだが、非常に混乱する。