飛翔への挑戦

前間孝則『飛翔への挑戦 国産航空機開発に賭ける技術者たち』新潮社、2010


戦後日本の航空機開発史を、開発関係者へのインタビューを中心にして描いた本。取り上げているのは、T-1、YS-11、C-1、T-4、T-2、F-1、F-2、US-2、P-X(P-1)、C-X(C-2)、SST、XF5-1(エンジン)、そよかぜII、ホンダジェットMRJで、主要な飛行機はだいたい網羅されている。

著者自身が、1946年生まれで、石川島播磨でジェットエンジン開発にかかわっていた技術者で、退社後、航空ライターに転身したという経歴の人なので、技術的な点についてきちんとした理解をもって、インタビューをできていることが第一のポイント。また、それぞれの飛行機開発者の中でもプロジェクトリーダークラスの主要人物にインタビューできていることが第二のポイント。国産飛行機のほとんどをカバーしていることで、この本が「戦後日本の飛行機開発史」になっていることが第三のポイント。

主任設計者に話を聞いているので、共同開発の場合に、主開発社がどういう手を使ってくるかが書かれていることもおもしろい。共同開発だからと言って、ノウハウを取られてしまっては困るので、全体設計は主契約社で済ませてしまっておいて、詳細な情報は開示しないで、計算の結果だけ伝える。設計の肝心な部分は部分にしか参加しないメーカーにはわからないようになっている。

問題はといえば、開発者の話をまとめた本なので、開発された飛行機にどういう問題があったのかという話についてはほとんど書いていないこと。成功譚の寄せ集めで、日本の航空機開発にどういう問題があったのかということは、この本だけではよくわからない。まあ、一冊で全部わかろうとするのは虫のいい話なので、それについては、また別の本で。