航空機産業のすべて

中村洋明『航空機産業のすべて』日本経済新聞社、2012


著者は、元住友精密工業専務、住友精密工業とBAeの合弁会社の会長を務めた人。航空機産業の中の人だから、技術的なことは大丈夫だろう。

航空機産業の特質と重要性、日本の航空機産業の現状、民生分野とのシナジー効果、航空機と構成品の開発プロセス、航空機産業の構造と動向、についてそれぞれ章が立てられていて、要領よく説明されている。

この関係の本に共通する立脚点として、「戦前は一流に伍していた日本の航空機産業が、なぜいまだに二流に甘んじているのか」という問題意識がある。それを切り開く種として、ホンダジェットMRJ、C-2、P-1などなどの話が出てきていて、その先に将来プログラムとしての第5世代戦闘機や超音速旅客機があるということは、まあわかる。

しかし、これまでの何がいけなかったから二流の地位にとどまっているのか、どうすればそこから抜けられるのか、という問題に対する分析的な答えはない。そういう問題の答えを出すことが目的の本ではないということなのだろうが、この本をざっと読むと、個別分野では技術があっても、それをまとめて完成機にしていくことに苦労していること、外国では航空宇宙防衛分野は大合併して寡占化するか、特定分野に特化するかになっているのに、どうして日本では複数社が群がっていて合併ができないのか、というような疑問がどんどん出てくる。

産業としての航空機製造業を民間機中心に見ていくということが主眼の本なので、ざらっとした概観のために便利であることはたしか。