カリコリせんとや生まれけむ

会田誠『カリコリせんとや生まれけむ』幻冬舎文庫、2012


最近自分の中がすっかり会田誠でいっぱいになっているので、現在手に入る限りの会田誠の出版物を集めているのだが、一番手軽に手に入るのがこれ。文庫版のエッセイだ。しかしこの完成度はどうよ。文章のプロではないのに、このエッセイ集で飛ばしたくなる文章がない。初出は幻冬舎のPR誌『星星峡』で、月刊のために自分の仕事の締め切りとかぶってしまい、非常に苦労しているようすが書いてある。一部は、自分の子供ネタにして、奥さんに投げている。しかし、投げられた奥さんの文章も込みでおもしろい。

冒頭のエッセイ「カレー事件」が、著者本人のすっかり壊れてしまった家庭(著者と奥さんの方ではなく、著者と父母、姉の関係)について容赦なく書いていて、この描写でまず爆笑。「アニマックス地獄」も、自分はアニマックスはほとんど見ていないのだが、やはりCSハマリなので、わかるわ。ディズニー・チャンネルは、映画はたまに見るが、ディズニーの万人受けするアニメはあんまりハマリたいとは思わないのに、キッズステーションの制作年代ばらばらの脈絡のないアニメ垂れ流し攻撃にはあっさりひっかかってしまうのだ。

著者には「偽悪」要素もあるといえばあると思うが、それよりも「偽善を断固拒否」「自身の周囲とはズレた価値観を貫き通すかたくなさ」という要素のほうが強いと思う。「球技」「体育会系人生」への呪詛や、チンポムの「ピカッ」事件についての弁明、飲み会で「制作なんかしたくない、旅行がしたい」とつぶやくだけの生意気な女子学生を面罵するくだりなど、「大人げない…」としか思えないが、この大人気なさがこのエッセイの、著者のおもしろさの真骨頂。

個人的には大場久美子をネタにして、著者にとってのエロさの原点を語る「マルクスの奥にエロがあった」が、一番心に残った。大場久美子の全盛期をリアルで見た人は、かわいくて個性がないといういまにつながるアイドル萌えの元があのあたりにあったことを実感できると思う。エッセイの各編の終わりに著者の作品「滝の絵」の部分を切り取った美少女の顔が貼り付けてあるが、このエッセイを読んで、「滝の絵」の無個性なスク水少女たちにより愛着がわいた。

さりげなく草間彌生を「あの婆さん、策士」とディスっているところなども、さわやか。このおもしろさで600円なんて、タダ同然だ。