仲代達矢が語る日本映画黄金時代

春日太一仲代達矢が語る日本映画黄金時代』PHP新書、2013


これは非常におもしろかった。勝新太郎の本を書いた春日太一が聞き手になって、仲代達矢にこれまでの映画人生をしゃべらせた本。これを読んでいると、仲代達矢は本物の「生きている日本映画史」である。仲代達矢は1932年生まれ。しかし1954年の「七人の侍」にエキストラではあるが出ているのだ。

しかもその後は、黒澤明だけでなく、小林正樹成瀬巳喜男千葉泰樹木下恵介山本薩夫市川崑岡本喜八五社英雄ほか、日本映画が一番おもしろかった時の巨匠たちの作品で、主役か、それに近い重要な役で出ている。ジャンルも多様で、役柄もバラバラ。何でもできたのだ。本人は、特定の映画会社の専属になることをあえて拒否してフリーの立場にいつづけたから、いろいろな作品に出られたと言ってるが、その立場でいることがいかにたいへんなことだったかについても述べている。うまくなければ、映画が当たらなければ次の話は来ないのだから、当然だ。

また、昔の映画がどれほど撮影に時間をかけ、俳優に多くのことを要求していたかについても、当人でなければ書けないことがいろいろと書かれている。昔の映画がおもしろかったのも当然で、天才たちが集まって、多くのコストをかけ、お互いに要求を上げていって作品を作っていたのだ。いまでも「おもしろい映画」というものはあるが、1950年代から70年代にかけてつくられた映画のようなおもしろさはもう再現できないだろう。

そして、この本で書かれている映画についての偉業は、仲代達矢の仕事の半分でしかない。本人は、一年間の半分を映画に、半分を舞台に使うことを両立させていままでやってきた、と述べているが、これだけの映画の仕事と同じだけ舞台もつとめているのだから、偉人2人分の仕事をしているのだ。

最初のほうで、俳優など10年に1人くらい出るくらいのものだと言っていて、無名塾を30年以上やっていて俳優専業で食べて行けているのは3人だけだそうだ。おそるべきことである。

最近の映画や俳優については、演技の基礎ができておらず、時間をかけて俳優を育成する努力もされていない、主役の役者が複数の映画を掛け持ちするようなことはありえない、とばっさり切っている。まあ仲代達矢でなければ言えないことだが、そのとおりなのだろう。

監督や俳優たちとの細かいエピソードもおもしろい話ばかり。この本を、仲代達矢存命中のこのタイミングで出せたことは、春日太一の非常に大きな功績だと思う。