一億総ツッコミ時代

槙田雄司『一億総ツッコミ時代星海社新書、2012


著者は、この名前だとわからないが、芸人「マキタスポーツ」の中の人。メジャーな芸人ではないのだが、この人の芸(主に音楽分野の人の形態模写)は、非常に完成度が高い。あまりお笑いのテレビを最近見ないので、テレビに出ているかどうかは知らないのだが、ライブで真価を発揮する人。2時間のライブで3分の2くらいおもしろいことをやれる人はなかなかいないと思う。

この本だが、お笑いがテレビで家庭にどんどん入り込むようになり、ソーシャルメディアで簡単に匿名で自分の言いたいことを言えるようになったおかげで、ふつうの視聴者が「お笑いを評価する人」「お笑い芸人のボケにツッコむ人」になっていき、そのことの度が過ぎて、「他人の目を気にし過ぎて、ベタなことをやって笑われたり、他人からツッコまれることを避けようとする人ばかりになってしまった」けど、それはあまりおもしろくないですよ、という内容。

この内容はまるっきり説教だし、新しいことを言っているとも思わないのだが、言い方、語り方がおもしろい。ソーシャルメディアでも、匿名性の高いところではみんながアグレッシブになり、芸人が受け切れないようなツッコミをガンガン飛ばしてくるのに、そうでないところではみんなおとなしくなるのだが、それは「自分がツッコまれないように、あらかじめ予防線を張っている」というのは非常に納得。AKBやももクロが受けているのは、彼女らが非常にベタで、天然なので「自分が守らないと」という上から目線の態度を誘発するからだ、というのもそのとおりだと思う。

そもそもおもしろいことというのは、画面の向こうにではなく、自分の毎日の生活での人との関わりの中にあるでしょう、というのはかなり説教臭くてイヤなのだが、言っていることはそのとおり。耳が痛い。