さっさと不況を終わらせろ

ポール・クルーグマン山形浩生訳)『さっさと不況を終わらせろ』早川書房、2012


アメリカの現下の不況に対する対策を簡単に正面から論じた本。結論は、「政府は大規模な財政支出を行え。今の財政支出は低すぎる。増税や支出削減は論外」、「金融は緩和を維持し、緩いインフレ志向の政策をとれ」というもの。では、財政赤字の増大はどうなる?高インフレの危険はどうなる?という懸念に対しては、アメリカのような自国通貨で借金している場合には、財政赤字は短期的には問題にならないこと(そうでない、ユーロ圏諸国は別)、現在のアメリカの状況では高インフレの危険は無視して差し支えないことを指摘している。

オバマ政権がなぜこの不況に対策をとっていないのかという理由については、共和党と妥協しなければならない議会との関係、政府内部に財政赤字やインフレを危険視する議論が強く、それを乗り越えられていないことを指摘する。しかし、オバマ政権(そして11月の選挙で成立する新政権)は、いずれにせよ財政支出の大幅な拡大(州、地方に対する援助でも、大規模プロジェクトではない、既存インフラの補修のようなことでもかまわない)が必要だとする。

経済学者の論争を追いかけていないと、この本の主張の妥当性は軽々しく論じられない。しかし、自分には非常に説得力のある主張に思える。特に、訳者解説でも指摘されているが、日本のやっていることは、著者のいう「やってはいけないこと」の羅列で、増税、支出削減は現在の不況をさらに深刻にするだけだという含意には大きく納得させられる。

訳文は非常にこなれているし、訳者解説は、クルーグマンのこれまでの議論の変節やその上での本書の議論の妥当性を説明していて、理解の助けになる。経済学を専門にしていない人にとっても大きな価値のある本。