「カルト宗教」取材したらこうだった

藤倉善郎『「カルト宗教」取材したらこうだった』宝島社新書、2012


著者はライター、ウェブサイト「やや日刊カルト新聞」主宰者。カルト取材を主な仕事にしている人。

最初のエピソードは、著者が北海道大学の学生時代に、サイトに書いた文章のことで、「ライフスペース」(「定説が・・・」の言い訳で話題になった、高橋弘二受刑者の団体)から抗議を受けたことから始まる。このライフスペースからの抗議文は、支離滅裂、意味不明で爆笑するしかないようなものなのだが、カルト宗教、団体と関わっていると、だんだん冗談のような話が冗談では済まされなくなるというのが、この本の読みどころ。

著者はライフスペース以外にも、「ホームオブハート」、「神世界」グループ、「ラエリアン・ムーブメント」、「パナウェーブ研究所」、「ひかりの輪」、「幸福の科学」等々、多くのカルト宗教、団体(自己啓発セミナーのような宗教ではない形態のものも含む)を取材しているが、このエピソードがかなり背筋が寒くなるようなもの。背筋が、というのは、これらの団体の活動が問題だということに加えて、公に報道、批判された時の、これらの団体の反応が恐ろしいということである。

著者が書いていることだが、外から見れば笑えるような団体は、笑われることを目的にして活動しているのではない。むしろ笑われると怒るような人たちであることが基本。ということは、これらの団体の活動に対して公に批判する人に対しては容赦がない。もちろん、企業や政党も批判者に対していろいろ仕掛けてくることはある。しかしカルトが怖いのは、彼らには常識が通じないのと、他者の批判を気にしない人たちであるために、「何でもやってくる」ということ。

この本では、サイババのマネをしている「ベストグループ」という団体から、訴訟を起こすと脅された話が出てくるが、相手が全国の支部で訴訟を起こしてくれば、こちらが個人の場合はその訴訟に対応しているだけで、金銭的にも時間的にも破綻する。多少の規模の団体なら、個人を黙らせるのは簡単なのだ。

また、プロバイダに対する削除要請や、著作権法違反を理由にした刑事告訴など、合法的な手段を使って批判者を黙らせる方法はいろいろあることも書かれている。著作権法がこのような攻撃に利用できる法律だということはまったく知らなかったので、非常に勉強になった。

さらに、「らーめん花月」を運営する「グロービートジャパン」社と、「平和神軍観察会」の訴訟は、「平和神軍観察会」、つまりカルト批判者側の敗訴に終わったのだが、この判決(最高裁で確定)は相当あぶないもので、個人がウェブサイトで行う批判であっても、マスコミと同レベルの「真実性」「真実相当性」が要求されており、ちょっとでもその点を外した批判は名誉毀損にあたる可能性を認める、批判者に不利な結果をもたらすものだということも、ここで初めて知った。新聞やテレビは、その点についてはほとんど問題点の指摘をしておらず、このことに関する限り、あまりあてにならないとのこと。

危ない人たちは、個人で見て心の中で楽しんでいる分にはともかく、理由はどうでも公に批判されておとなしくしているわけではないのだ。相手がジャーナリストだろうと、個人だろうと関係なし。危ない人と関わるときには相当の覚悟がいるということを教えてくれる貴重な本。