ナチス映画電撃読本

別冊映画秘宝編集部、高橋ヨシキ、岸川靖(編)『ナチス映画電撃読本』洋泉社、2012


書店で見つけたので飛びついた一冊。だいたい想像はついたが、映画「アイアン・スカイ」の公開にあわせて、ナチス本を一冊作ってしまえという便乗本。しかし、企画は便乗だが、内容はちゃんとしている。

前半は、「アイアン・スカイ」の特集。ストーリーや、月面ナチス基地の図解、なぜか月面で動いている、ツェンダップのサイドカーつきバイクやら、ナチスの円盤宇宙船やら、いろいろ出てくる。日本の宇宙船は「漢字1号」というらしい。うーん。

ここでおもしろいのは、製作側へのインタビュー。監督はフィンランド人。この人(ティモ・ヴォレンソラ)は、スタートレックのパロディ映画も作っている人で、要するにオタクな人。ナチ映画を、いかに喜劇とはいえヨーロッパで作るのは相当大変だと思うが、ベルリンで上映した時もバカ受けだったらしい。

製作者(テロ・カウコマー)のインタビューでは、いろいろ配慮はしたが、最初の構想通りに作ったと言っている。制作費は600万ユーロだったとのこと。けっこう安いな。続編の企画もあるそうなので、たのしみ。

第3章は、ナチ映画の特集。高橋ヨシキの説教はややウザイが、ナチス本を作る以上、一応言い訳しておかないといろいろ面倒な事になるのだろう。本書の冒頭でも、「ホロコーストと、ネオナチには触れません」と断り書きがある。一番価値のあるネタは、『ナチスと映画』では絶対に取り上げられないようなネタ、「ナチ・女囚エログロ映画」である。「イルザ ナチ女収容所/悪魔の生体実験」から、「サロン・キティ」=「ナチ女秘密警察 SEX親衛隊」まで、知らないものも含めてばんばん取り上げられている。1本を除いて、日本公開されているとのこと。ソフト化は簡単じゃないのかなあと思ったが、「イルザ」も、「サロン・キティ」もちゃんとDVDになっている。これは見ないと。

ほかのセレクションも渋く、「ザ・キープ」、「炎628」、「ファーザーランド」等々、これは、と思うようなナチ関係映画がたくさん取り上げられている。これは満足。「意志の勝利」を「シアターN渋谷」で上映したら大ヒットになったという支配人の文章には本当に笑った。

そして、締めは、「サブカル・ナチ」。ロック、本、テレビドラマ、子供向け特撮、マンガ、猟奇殺人がカバーされ、さらに「ナチ・ドイツ兵器のプラモデルの箱絵」「ナチス想像兵器と日本特撮映画」の項には感涙。

これだけの内容で、よくぞ作ってくれたと思う。この本にサイモン・ヴィーゼンタールセンターとかが阿呆な文句をつけてこないように祈るばかり。