ゴヤ

ジャニーヌ・バティクル(堀田善衞監修、高野優訳)『ゴヤ スペインの栄光と悲劇』、創元社、1991


ゴヤの生涯と作品を解説する本。このシリーズ(「知の再発見」双書)の例によって、図版が豊富で読みやすいし、見ていて非常にたのしめる。

ゴヤがどういう過程で、「気まぐれ」「戦争の惨禍」「「黒い絵」を描く絵描きになったのかについて、きちんとしたことを何もわかっていなかったので、この本を読めて非常によかった。ゴヤは、基本的には宮廷画家で、王と貴族たちの肖像画で出世して財を成した人である。

しかもフランス軍がスペインに入ってからも、新王ホセ1世に忠誠を誓っていて、宮廷画家としての地位を保持し続けた(もっとも給与を受け取ることは辞退していた)。ナポレオンが敗れて、ブルボン家の王が戻ってきてから、占領軍への協力を追及されたり、「裸のマハ」「着衣のマハ」が宗教裁判になったりして、いろいろ辛酸を嘗めながら、晩年まで宮廷画家としての地位を保ち、絵を描き続けた。ブルボン朝、フランス占領期、立憲王政、再度の専制王政と歴史の変化に振り回され、それでいて自分の地位は維持していた人だから、二枚腰、三枚腰の一筋縄ではいかない人である。

そういう環境で、肖像画を描きながら、「黒い絵」「ロス・ディスパラテ」のようなおよそ金にはなりそうもない絵も描いていたのだから、やはりただものではない。肖像画も、注文主の喜ぶような水準を保ちながら、モデルの黒い部分も入っているというもの。質と量ともに高いレベルの仕事をほぼ一生涯残している。

今度展覧会に行く時には、最初から読みなおしていくことにしよう。まあ、プラド美術館に行くのはなかなか無理だろうけど。