ナチスと映画

飯田道子『ナチスと映画 ヒトラーナチスはどう描かれてきたか』、中公新書、2008


なかなかよく書けた本。前半は、ドイツ映画の黎明から話がはじまり、主にナチス政権期に製作された映画が紹介される。後半は、戦後のヒトラーナチス関係の映画(ドイツ映画に限られない)が、ヒトラー個人、ナチスホロコーストまでいろいろな観点から時系列的に紹介される。

前半部分では、リーフェンシュタールの映画が多くのスペースを割いて紹介されているが、ゲッベルスの映画政策やニュース映画、戦時下でも多く製作されていた娯楽映画もきちんと言及されており、ナチス自身が映画をどのように活用していたかが、概観できるようになっている。ニュース映画は断片的にしか見たことがなかったので、この部分の説明はありがたかった。

後半では、時代とともにヒトラーナチスのイメージが映画の中でどう変わっていったかが主題。ナチスが「単なる悪役」から、70年代にいたって、「魅力的な美しい悪」に変わっていったことへの指摘に納得。主な題材はヴィスコンティ地獄に堕ちた勇者ども」とカヴァーニ「愛の嵐」。

ホロコースト映画は、劇映画からドキュメンタリーまで幅広く紹介されているし、1990年代以降の「新しいヒトラー像」をつくった映画にも多くのページがとられている。

全般的に非常にバランスよく、多くの映画を紹介して、「ヒトラーナチスに人々が何を求めてきたか」をわかりやすく描き出している良書。巻末には、このテーマに関する多くの参考文献のほか、主要なヒトラーナチス関連映画が、戦後製作のものに限ってだが、戦争映画から「レイダース 失われたアーク」のようなものまで、簡単な解説付きで紹介されている。