生誕125年 榊原紫峰とその仲間たち

「生誕125年 榊原紫峰とその仲間たち」、足立美術館、2012.9.28


行ってみたいと思っていたのに、なかなか行けなかった足立美術館。松江に用事ができたことにかこつけて、とうとう行くことができた。

今やっている特別展がこの、榊原紫峰の展覧会。紫峰の絵を見るのは初めてだが、いい意味での「上手い日本画家」だと思う。彩色のテクニックは巧みで、水墨画も非常に緊張感のある絵。清冽な気合を感じさせるような絵描きである。紫峰とともに、活動していた画家たち、土田麦僊、入江波光、村上華岳、小野竹喬の絵も展示されていて、これらも佳作揃い。

さて足立美術館だが、安来市の、かなり南側(山側)のほうにある。周囲にはこの美術館の客目当てだろう土産物屋と温泉施設があるが、それ以外には何もないただの田舎。そして2200円の入場料とアクセスの悪さは、どうしてもここに来たいという人以外を遠ざけるのに十分な条件になっている。

しかし実際にこの美術館、特に庭を見ていると、この条件の悪さ=適度な客の少なさ、周りに高い人工建築物がないことが美術館の魅力の核心になっていることがわかる。庭はたいへん広く、枯山水の庭、苔庭、池庭など趣の違う庭がいくつかある。そのそれぞれが、人工美の極致といえる手入れの行き届いたもの。植栽の刈り込みひとつとっても、非常に丁寧なもので、勝手に伸びているものではない。庭園には見えただけでも6、7人ほどの庭師が作業をしていて、この庭が膨大な労力が結実したものであることをうかがわせる。

庭の背景は借景になっているが、建物や鉄塔などはまったく見えない。庭の向きなどは建築当時に考えぬかれたものだろうが、この田舎の土地にあるからこそ、人工物のない景色を維持できるのだ。これが市街地に近いところだったら、近くに少し高い建物ができてしまうだけで景色は台無しになってしまうだろう。

いくつかの喫茶室と茶室があって、それなりのお金を取っているが、そこは座ってくつろぎながらこの庭を楽しむための場所。茶室の窓も掛け軸の形になっていて、庭を生きている絵のようにたのしむことができる。これも客の数がある程度少ないからできるので、京都にこの庭があったとしたら、客が洪水のように押し寄せて、庭は人の影で見えなくなってしまっているだろう。現に観光シーズンの京都の有名寺社はどこもそういうことになっている。ここは観光地から離れた安来市だから、ある程度の静かさを保っていられるのだ。

茶室で出てきたお茶はほんとうに美味しく、茶菓子もそれに合わせたよいものが出る。空調のきいた部屋で緑の濃い庭の景色を独占できることはほんとうにぜいたくなこと。

展示品(売り物の横山大観だけでなく、比較的最近描かれた新作も非常にいい)、庭、全体の雰囲気の3つがハイレベルでまとまったすぐれた施設。駐車場に置いてあった車のほとんどは、県外ナンバー。住んでいるところからは車で3時間以上はかかるが、その程度のことはこの美術館の価値の前ではたいしたことはない。