世界の運命

ポール・ケネディ(山口瑞彦訳)『世界の運命』、中公新書、2011


ポール・ケネディのエッセイ。歴史家のエッセイらしく、巨視的な流れの中で昔の出来事と今の出来事を上手に混ぜあわせて文章を書いている。アメリカの力の源泉はソフトパワーなんかではなく、ハードパワー、とりわけ軍事力そのものと言い切っていたり、アメリカの国家戦略文書は目標や手段に優先順位をつけられていないという意味でガラクタと言っていたりして、どのエッセイにも針が1本しのばせてある。

領土面積、人口、耕地面積のバランスと国家の力の関係、イスラエルとアラブの人口動態の変化がイスラエルの安全保障に及ぼす影響などなど、それ自体は知られていないことではないが、上手に論点と関連付けを見つけてきて文章を仕上げている。お手本になる上手なエッセイ。

ところどころ変な箇所があるが(例えば、「レーダーに反応しないステルス塗装を施したディーゼル潜水艦」とか)、原文がおかしいのか、訳の問題なのかはよくわからない。

サクッと読めるところもよし。90分はかからない時間で読める。