ぼくは猟師になった

千松信也『ぼくは猟師になった』、リトルモア、2008


これは非常におもしろかった。著者は、1974年生まれ。京都大学文学部を卒業後、運送会社で働きながらずっと猟をしているという人。著者が猟師になるまでのプロセスもおもしろいのだが、本題はやはり著者の猟師生活。

著者の狩猟免許はワナ猟と網猟で、銃の免許はなし。これだと簡単に免許が取れる。ただし免許が取れるのと、実際にワナを仕掛けて獲物をうまくとれるかどうかはまったく別で、経験と工夫の積み重ねだということはこの本を読んでいくとよくわかる。

猟師に必要な技術は、ワナを上手に仕掛けることだけでなく、血抜き、解体、精肉も含まれていて、他人の助力を借りることはあったとしても、これらのすべてができなければ、売るにしても自家消費するにしても、ちゃんとした肉を手に入れることはできない。著者も肉の解体と処理に慣れるまでには相当の時間がかかっている。

著者は、捕獲した肉を売って生活しているのではなく、自分と友人で食べるために猟をしているのだが、それでも、ワナをしかけている時期はすべてのワナを毎日見回らなければならない。ワナに獲物がかかっていて、放置しておけば、肉が台無しになってしまうからだ。一日2回、30分から1時間かけて見回る(ワナの数は、見回りのできる数に限定される)ので、それだけでも相当の労力。猟師専業ならなんとかなるかというと、猟期は決まっているので、よほどの収穫がないと、これだけで食べていくのは難しいだろう。

この本で知ったのだが、イノシシとシカは、新鮮な状態できちんと処理されていれば、まったく臭みはなく、非常においしくて食べやすいとのこと。以前、イノシシは肉に臭みがあるので、味噌などの濃い味付けが食べやすいと聞いたことがあるのだが、それは処理などに問題がある場合だけらしい。2キロの肉が5人前から6人前だと書いてあるが、それでも1人300グラムから400グラムくらい食べることになる。けっこうな量だ。

図版は、ワナのようすや、獲物がかかって血抜きしている状態、解体や精肉の各過程、料理した後の状態、いろいろな料理とレシピ、皮をなめして加工した製品、鴨やスズメの猟、野草、魚の漁まで、豊富に載っている。これを眺めているだけでも楽しい。

生きている動物がスーパーでパックされた状態になるまでの距離について、いろいろと考えさせられる本。良書といえる。