大統領選からアメリカを知るための57章

越智道雄『大統領選からアメリカを知るための57章』、明石書店、2012


この「エリア・スタディーズ」のシリーズは、ちゃんとした出来の本とそうでないもののの差が極端で、著者のことを多少知っていないと安心して読めない。この本もそう。

著者は、アメリカ政治、文化には非常に詳しい人なので、大統領選挙の制度的な仕組み、その歴史的由来といったことに関する事実関係については、きちんと書いているし、参考になる記述をしている。

ところが、問題は著者が主に取り上げている、ケネディニクソンの1960年大統領選挙以後の、民主党共和党の選挙戦についての著者の記述。著者は、まるっきり「共和党=悪玉、民主党=善玉」の立場で一貫して書いており、選挙用の広報文書ならともかく、客観的な分析ができているのかどうかが疑問である。

実際に、著者の選挙分析は、民主、共和の各候補のテレビ演説や選挙戦術の巧拙については論じているが、アメリカにおける投票行動研究、選挙研究の成果にまったく言及していない。著者の言う、「勝敗の理由」が著者の思い込みなのか、客観的な証拠に基づくものなのかがわからない。これは政治分析の本としては致命的である。

大統領選挙に関するさまざまなエピソードは豊富なので、その点ではおもしろい本だが、はっきり言ってどこまで信用できてどこからがそうでないのかがわからない。版元が明石書店なので、要するにそういうこと。