最高に贅沢なクラシック

許光俊『最高に贅沢なクラシック』、講談社現代新書、2012


簡単に言ってしまうと、「安い生活をしている人間に、本物の芸術なんてわかるわけないだろ」、という本。

そう言われて気持ちよくなるわけはないが、読んでみると確かにそうかもしれないと思わされる。狭い部屋でカップラーメンをすすりながらmp3プレーヤーで音楽を聴いているのと、外国の三ツ星ホテルに泊まり、贅沢な料理と酒を楽しんでおしゃれをして演奏会場に出かけるのが、体験として同じレベルであるわけはない。

実際に著者は、演奏会に出かけるためだけにヨーロッパと日本を何度も往復しているそうなので、著者の体験に関しては全く文句はつけられない。

もっともそれを言い出せば、芸術鑑賞だけではなく、人生そのものの体験が金持ちと貧乏人では、全く質が違うものなのだから、単に同じ人間だというだけで人生の体験が同じわけはない。

自分の財力では、逆立ちしても著者の真似はできないので、その事は仕方がないとして、それ以上こっちは言うことは何もないのだから、すばらしい体験をされてそれは結構なことでしたね、としか言うことはない。

なので貧乏人が読んでも意味はあるのかどうか甚だ疑問だが、自分が目にしている世界だけが世界じゃないよということを再認識させられる、という程度の意味はあるかもしれない。