陸軍省軍務局と日米開戦

保阪正康陸軍省軍務局と日米開戦』、中公文庫、1989


1978年の著書にあとがきのみ、加筆、改題したもの。東条英機への大命降下から、太平洋戦争開戦までの歴史を、ともに陸軍省軍務局に焦点を当てて描いている、ドキュメントノベル。

陸軍省、特に東条英機は、できるだけ、開戦回避を図っていたが、状況の推移に押し流されてしまったという、よくあるストーリーを描いている。

押し流されてしまったとは言っても、自分に都合の良い条件をアメリカが受け入れなかったという、あくまで、自分の部局に都合が良い理由に過ぎないので、著者の筆は陸軍省に対して甘すぎる。そもそも、引き返しができなくなった点を考えると、三国同盟締結や、南部仏印進駐まで遡ラなければならないので、東条内閣成立では、話が遅すぎる。

この本を読んでわかることは、戦争突入以後の戦争計画がいい加減にしかできていなかったということだけで、その点については海軍省参謀本部、軍令部もほぼ同罪。

加筆された後書きの部分では、いきなり天皇の戦争責任を持ち出したり、太平洋戦争は不可避であったという議論を持ち出したり、それまでの事実とは明ラかにかけ離れた記述をしており、よく意味がわからない。

こういうことを平気で書いているから、著者の記述はどうも信用できないのである。話半分として読んでおくべき本。