旅のうねうね

グレゴリ青山『旅のうねうね』、TOKIMEKIパブリッシング、2012


グレゴリ青山の旅マンガ。帯に「8年ぶりの旅マンガですー」とある。そして表紙は版画。非常にワクワクして読んだが、これは傑作。作者のいろいろな旅の記録なのだが、どの話もハズレがないだけでなく、旅の情趣がほのぼのと漂ってきて、しみじみといい話。

作者は、1966年生まれということで、87年の中国旅行から、アジアを旅行しまくっている。自分も80年代の終わりに中国に行ったが、そのころの中国といえば経済発展の前で、内陸部どころか沿海部の大都市も人口が多いだけのただの田舎で、ホテルや食堂の従業員も社会主義のやる気の無さをいっぱいに出しているようなところだった。

作者の旅先の、台湾、香港、シンガポールベトナム、ネパール、インド、ビルマ、マレーシア等々にはけっこういっていないところもあるのだが、どこも田舎だったころの懐かしいアジアの風景ばかり。経済発展だと日本より20年くらいは遅れていたから、80年代のアジアは60年代の日本みたいなもので、作者はそういうことは書いていないが、画のいろいろな書き込みから、もうほとんどなくなってしまった光景へのなつかしさがにじみ出ている。

また、そういう自分の思い出に浸りっぱなしになるのではなくて、カップルの寝室に泊まったら、カップルが始めてしまい、さらには男のほうが自分のベッドに入ってきてあわてる話とか、ちゃんと笑いどころや泣きどころを押さえていて、ひとつひとつの話が短編小説みたいになっているところもよし。

途中で、作者が尊敬する人の「旅についての言葉」がはさみこまれているが、このセレクションも渋い。悪いところがまったく見つからない。画ははっきり言ってぜんぜんうまいわけではないが、このマンガの雰囲気には非常によくあっている。

この作者の本でハズレにあたったことがない。この本、地道に売れてほしいと思う。