NHK歴史番組を斬る

鈴木眞哉NHK歴史番組を斬る』、洋泉社歴史新書y、2012

NHKで定期的にやっている歴史番組の内容がいかにいい加減かという本。大河ドラマはあくまでも「ドラマ」だからそこに出ていることがすべて真実と思っている人はいないだろうと思っていたら、現実にはそうではないらしく、あれを歴史の教科書みたいに思っている人はけっこう多いらしい。それはそれで問題だが、ドラマと銘打っていない、ドキュメンタリーだと思われている方の番組も問題ありありという話。

著者によれば、NHKの歴史番組が定期化したのは1970年放映開始の「日本史探訪」からだが、その前にラジオでやっていた前史があるという。それ以後はほとんど切れ目なく、総合テレビで歴史番組があり、現在は「歴史秘話ヒストリア」(総合)、「さかのぼり日本史」(教育)、BS歴史館(BS1)の3本。

問題は、まず取り上げる時代や事件が非常に偏っていること。戦国期と幕末維新期に集中している。当然同じネタが繰り返し取り上げられる。次の問題。同じネタが繰り返し取り上げられるにもかかわらず、基本的に正しい知識を伝えていないことや、まともな歴史家が取り上げないような珍説を事実として取り上げていることが多い。しかも、製作者は同じNHKだと言っても、同じ人が番組を作るか、継続して番組内容をチェックしているわけではないので、シリーズの中で同じネタが複数出てきているのに、言っていることがバラバラで、整合性がない場合がある。

中でも一番深刻だと思うのは、「歴史には必ず正しい答えがある」という前提に基づいて、その「正解」を視聴者に押し付けているという話。歴史が解決のついていない問題だらけという認識は、NHKやその視聴者にとって全然あたりまえではなく、答えはすでに出ていてそれを知るだけと思っている人が多いので、番組もそのような構成になってしまうというおはなし。

これはテレビというメディアの性格上、だいたいそういう話になってしまいやすいことは想像がつくが、要はテレビは複雑な問題を取り上げるには向いていないメディアだということ。知識や教育程度がバラバラな視聴者の多くに見てもらおうとすれば、どうしても知的レベルが下の人に合わせて番組を作らなくてはならず、「とにかく話をわかりやすく」という態度が簡単に出てくる。答えが決まっている問題だったらそれでもまだいいが、そうでない問題だとだいたいストーリー自体がゆがんだことになってしまう。

NHKの歴史番組は、昔はともかく最近ではあまり見ていなかったが、それはけっこう正解だった。テレビで勉強しようなどという了見はけっきょくろくなことにはならないようだ。