イギリス帝国の歴史

秋田茂『イギリス帝国の歴史 アジアから考える』、中公新書、2012

これは良書。イギリスの帝国化とその終焉が、東インド会社設立から、香港返還にいたるまで、俯瞰的に描かれている。経済史的な観点が中心だが、基本的な政治問題も当然網羅されており、「英帝国」という存在がどういうものだったかということが、おおよそわかる。

また通史的な記述だけでなく、比較的新しい研究成果にも随所で言及があり、このフィールドの研究で何が問題になっているかを理解するための糸口としても役立つ。

副題の「アジアから考える」は、もちろんこの本の記述の中心がインドと中国におかれているため。インド支配がどのような形態で行われていて、どういう形で英本国に利益をもたらしていたのか、中国がどのように「非公式帝国」に組み込まれていったのか、という点に関する記述は非常にわかりやすい。また、日本についても幕末以来の対日関係が英帝国の維持にどのように後見してきたのかがきちんと述べられていて、インド原綿と日本の紡績業の関係や、日英同盟の位置づけ、大不況下でのイギリスと日本の貿易摩擦などについて、非常に勉強になった。

この分野に関心をもつ人が最初に手に取るべき本。また、英帝国のみならず、帝国と覇権の問題に関心を持つ人にとっても非常に有益。図書館で借りたが、これは買って持っていたほうがいい本。