ただ坐る

ネルケ無方『ただ坐る』、光文社新書、2012

ネルケ無方の新著。副題に「生きる自信が涌く 一日15分坐禅」という文句がついているのだが、間違いなく編集者が一方的につけたもの。というのは、この本には「ただ坐る」ことしか書いておらず、一日15分坐禅をするといいことがありますよ、などということは全然書かれていないのである。

坐禅」と「座禅」の字句の意味からはじまって、坐禅の環境、坐禅に向かう態度、準備としての座布団と衣服、坐り方(特にここはていねい)、呼吸、心を調える方法、生活と禅、という順番で、ひたすら坐禅をどうするかということだけが書かれている。なので、本来、坐禅を最初から前提としない、読むだけという人に向けた本ではない。

それでも著者は、この本を読んで少しでも坐禅に向かう機縁としてほしいと思っているのだろう。著者の住する安泰寺では、一年間に1800時間を坐禅のためにとっているという。単純に計算して、土日も祝日も関係なく(実際、そのようだ)、一日6時間近く坐禅していることになる。坐禅をしていない時間の多くは作務にあてられているので、暇な時間はほとんどない。そのことを、すべて自分の時間と思えなければ寺で修行する意味はない、というのが著者が言っていること。

道元の著作が何度も引用され、それが著者にとっての規矩となっていることがよくわかる。最後に「坐禅儀」が付録としてついているが、現代語訳なしですっと頭に入る。