ほんとうは怖い沖縄

仲村清司『ほんとうは怖い沖縄』、新潮文庫、2012

沖縄での「霊」がらみのいろいろな現象について書かれた本。

わたし自身は、「霊の存在」などまったく信じないし、そういう関係の本も基本的には読まない。この本を買ってみたのは、「沖縄県民には霊についての現象を「実在のものとして」信じている人が多いのだということを説明している本だから。

著者は、1958年生まれ、大阪生まれで、親が沖縄出身というライター。本に書いてあるかぎりでは、沖縄に来るまでは、若い時には左翼だったので霊などまったく相手にしておらず、自身は真宗門徒なのでやはり霊など信じない、という人だそうだ。

のっけから、著者の離婚問題にユタ(霊媒師)や、セジ(職業的な霊媒師ではないが、霊が「よく見える」人)がからんでくるところから始まっていて、この時点でかなり目が点になる。その「霊が見えている人」がどう思っているかはともかく、著者の前妻も含めて周囲の人々は、その「見えている」人の話をまったくの事実として受け取っている。またそういうことは沖縄ではまったくあたり前のことであり、年齢が若い人であっても霊に関する話をごく自然なこととして受け入れているとのこと。

自分はいままで4つくらいの都市にしか住んだことがなく、それもすべて政令市なので、「田舎」のことはほとんどわからない。それにしても、日本の中で地域の多くの人が霊の話を信じているようなところは相当珍しいだろう。県内全部がそうだ、などということは沖縄以外ではないと思う。そういえば、沖縄県立美術館・博物館の展示で、沖縄での祭事についての写真展を見たが、祭事といっても神輿が出て、みんなで騒ぐような祭りではなく、言葉どおりに「霊を祀る」ものだった。あの写真展は、それが珍しいからという理由ではなくて、それが沖縄での日常的なものを切り取っていたから、かかっていたわけだったのね。

那覇新都心は、「霊的に非常によくない場所」とか、便所の神様がどうとか、霊媒師や「見える人」たちの実際、沖縄戦での死者の霊のお話など、口が開きっぱなしになるようなエピソードがてんこ盛りになっている。米兵の霊が出る話が、米軍基地の中ばかりとか、それってちょっとどうなのという話も多いのだが、とにかくこういう話が多くの人に信じられていることは間違いないらしい。自分としては、とにかくそのことに一番驚くが、そこに住んでいる人にとってはそれが現実だということ。まあほんとうに驚いた。