山本五十六再考

野村實『山本五十六再考』中公文庫、1996

単行本で出た時の初出時タイトルは、『天皇伏見宮日本海軍』。実際に内容もそのタイトルに沿っていて、伏見宮天皇、海軍への影響力を議論している部分がメイン。次に山本五十六についてのエピソードが来て、最後に海軍の小エピソードの雑纂の部分がある。

著者は、1922年生まれ、海兵71期。終戦時大尉。防衛庁戦史研究室長、防衛大学校教授。防衛学のほうではなく、歴史家である。戦史叢書の編集もやり、他の著作も多い。

これを読むと伏見宮の海軍における影響力がいかに強大なものだったか、伏見宮が海軍を太平洋戦争に引っ張っていくことにいかに貢献したかについて、綿密に述べてある。皇族、最長老、元帥を兼ねているような人物が実際に海軍を束ねていて、人事にも政策にも力を振るっているとなると、海軍に避戦派がいても何もできなかった理由も納得。大正天皇よりも年長なので、昭和天皇も手がつけられない。こういうシステムになってしまっているのが失敗のもとだが、こういう人がいったん影響力を持ってしまえば、誰も手は出せなかったということ。

最後の雑纂の部分では、蘭印だけを目標とした、オランダとの限定戦争の可能性、イギリスの中東への海上交通路を遮断するためのインド洋西部での作戦といった、これもけっこうおもしろいネタが出ている。しかし、前半部分を読んでしまうと、太平洋戦争直前あるいは開戦後に起こったことでその後の歴史が変わっていた可能性はかなり低いことがわかる。

巻末のインタビューリストと文献表を見れば、著者の積年の探究が集約されている。まだまだ読むべき本で読んでいないものばっかりだ。