「昔はワルだった」と自慢するバカ

小谷野敦『「昔はワルだった」と自慢するバカ』、ベスト新書、2011

タイトルでずいぶん損をしている本だと思うのだが、内容は「俗物性」についての本。

あっちゃんの本の例に漏れず、近代西洋と日本での俗物性がどういう形で現れてきたのかを、山ほど事例を集めて紹介している。

まあ、あっちゃんの論は、「ワルぶっている連中は、結局自分をかっこよく見せたい俗物でしょ」ということになっていて、中島義道が代表にされてこっぴどく叩かれている。わたしは中島義道は読んだことがないので、批判の部分も含めてぜんぜんわからないのだが、ここまで細かいことを指摘されて論難されなければいけないような人物なのかどうか。あっちゃんの私怨が入っているのかもしれない。

俗物像の変遷についての議論はとてもおもしろかった。明治時代のような階級制のはっきりしていた時代の俗物が、金持ちの知識自慢、趣味自慢程度ですんでいた(もともと俗物になれるのは、ある程度の金銭的余裕があって、知識や教養をひけらかすことができるようなレベルの人だけ)のに対して、大衆社会になってしまってからは、そこらじゅうに俗物が拡大して、多くの人が知識人や成功者の真似や追従に必死になるのは、自分にもあてはまることなので、非常に納得。特に、成功者はどんなに俗物根性まみれでも、それ自身は俗物ではなく、成功者を追いかけている人たちが本当の俗物というのはそのとおり。

社会が豊かになると、簡単に成功者を追いかけられるようになるので、俗物がどんどん増殖。80年代の知的流行と俗物はやりのくだりは、読んでいてけっこう背中がかゆくなる。タイトルがダサいのも、俗物への撒き餌なのかもしれない。