日中戦争がよくわかる本

太平洋戦争研究会『日中戦争がよくわかる本』、PHP文庫、2006

日中戦争の入門書。著者名義の「太平洋戦争研究会」は、新人物往来社の「別冊歴史読本 戦記シリーズ」や、このPHP文庫で太平洋戦争関連の本を多く出版しているグループ。350ページくらいの本だが、主に盧溝橋事件以後、太平洋戦争敗戦時までの日中戦争の主な経過と、作戦が概説されている。

図版はかなり豊富で、当時の写真、新聞、地図がふんだんに乗っている。戦争当時と現在では地名も違っているところが多いので、地図は必須。戦史叢書は敷居が高いので、おおよその戦争の経緯を知るためには便利な本。

南京事件のような議論のある問題については慎重な書き方をしているが、基本的に日本側の残虐行為については、かなり容赦のない書き方をしている。そういうスタンスの本なので、それは差し支えない。

支那事変中の和平工作が失敗した理由についてはきちんと書かれていて、日本側が和平にまじめに取り組む体制になっていなかったこと、戦争が継続し、損害が増大するにつれて、逆に「相当われに有利な条件でないと、英霊に申し訳ない」というような理由でずるずる泥沼にはまりこんでいったことが、明らかにされている。

全体としてそれなりによく書いてある本だと思うが、入門書ということを考えると、きちんとした参考文献リストがついていないことは問題。また、本の性格上やむを得ないことかもしれないが、引用する場合にはページを明記してほしい。また著者名義は「太平洋戦争研究会」だが、実際には森山康平の単独執筆なので、それがはっきりわかるようになっているべき。