日本仏教の可能性

末木文美士『日本仏教の可能性 現代思想としての冒険』、新潮文庫、2011

著者の大谷大学相国寺東京大学での講演に加筆したもの。単行本の発行は2006年。

もとが、仏教関係者に対する講演ということもあって、日本仏教に対していろいろ手厳しいことを言っている。いろいろ教わることが多い本なのだが、そのひとつが、「鈴木大拙やら他の人達が日本仏教、特に禅仏教のある特定の面をとりあげて外国で広めたために、外国では日本仏教や禅仏教が妙に理想化されているところがあり、最近日本仏教の実態を見た外国人がその問題点をいろいろ指摘するようになってから、その色眼鏡が外れてきた」という話。

自分が読んできた仏教本も、そういうものが多かったので、「不立文字」というようなことをそのまま受け取ってしまっていたように思う。著者の師匠は禅仏教の文献は読むけれども自分では座禅はせず、「座禅をすると禅がわからなくなる」とはっきり言っていたということなので、著者はそういう立場を堅持してきたのだろう。

そのほかにも、「軍国主義がはやれば軍国主義、民主主義がはやれば民主主義、人権も環境問題も、そのとき流行っているものを無批判に取り込んでいるだけ」という日本仏教の姿勢への批判や、「一神教多神教を安易に対比させて、多神教がより寛容だとか、よく考えもせずに口にするな」といった痛罵とか、そりゃそうだと思うようなことがいろいろと書いてある。

葬式仏教という位置づけをどう考えるか、神道との関係、死者との対話、その他いろんな切り口で日本仏教に切り込んでいて、どこの章から読んでもおもしろい。