なぜ男は女より多く産まれるのか

吉村仁『なぜ男は女より多く産まれるのか 絶滅回避の進化論』、ちくまプリマー新書、2012

進化論の本。著者はダーウィン自然選択説を批判している。それは「環境が変化しない」という前提の下では、適応度のより高い生物が生き残り、他の生物を圧倒するということを言っているのだが、「環境が変化しない」という前提は長期で考えると現実的でない。環境が可変の状況では、生物は自分たちの数を最大化することではなく、自分たちの種が絶滅する可能性を下げようという目標を第一に追求し(進化の第1原理)、その次にダーウィンのいう自然選択論による進化=与えられた環境下で数を最大化する、が追求される(進化の第2原理)という。

著者のこの説が、「素数ゼミ」(13年、17年といった素数周期で産まれるセミ)、モンシロチョウの産卵、人間の性比(男が女より若干多く産まれる)などの例をあげて説明される。この説明のしかたが非常にクリヤーで、読んでいて目がさめるような思い。

また著者は、変化する環境下で絶滅を回避するためには、生物の多様性が維持され、その下で、異種生物の共生、協力が行われると考えることが理にかなっているとする。ダーウィン自然選択説ではこの生物多様性を説明できないという。例えば、植物プランクトンの生存についての実験では、栄養が豊富な環境では、1種類のみが生き残るが、栄養が豊富ではない環境では、生物の分布はまばらであり、多数の種が生き残るのだという。

最後に例を経済に移して、「短期投資戦略は、長期では生き残れない」ことを主張しているが、この部分も考えさせられる。

ちくまプリマー新書は、比較的年齢の若い読者に対して、やや過剰に親切な説明をするシリーズだと思っていたが、この本は全く違う。どの部分も非常にスリリング。最近読んだ理系の本の中では、最も「あたり」の本。